「その兵器ウクライナにいい」交渉上手なだけでないゼレンスキー大統領の安全保障戦略
それいいね欲しい! の裏にあるゼレンスキー氏の思惑
アイアンドームはブッシュマスターと異なり、現在進行しているロシアとの戦いですぐ役に立つ兵器ではありません。にもかかわらずゼレンスキー大統領が名指しでアイアンドームの供与を求めた背景には、ゼレンスキー大統領とウクライナ政府が、「戦後」のウクライナの安全保障に、イスラエルを関与させるための布石なのではないかと筆者は思います。
ウクライナは3月29日に行われたロシアとの停戦交渉で、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)への加盟を断念する見返りとして、10か国がウクライナの安全を保証するという案を提示しています。
この10か国の中にはアメリカやイギリスのほか、今回の侵攻でウクライナにおける“抵抗のシンボル”の一つとなっている「バイラクタルTB2」開発国のトルコなどに加え、イスラエルも含まれています。
イスラエルはロシアの侵攻以来、ロシア、ウクライナの両国の調停を試みており、ウクライナが安全を保証する国として挙げた10か国の中で、最も中立的な位置にあります。そのイスラエルを、ウクライナの安全を保証する国の一つに加えることができれば、ロシアが求めているウクライナの「中立」という印象は強いものになります。
ロシアとの戦いがいつ終わるかの見通しが立たない中でも、既に「戦後」に向けた布石の一つとしてアイアンドームの供与を求めたのだとすれば、ゼレンスキー大統領とウクライナ政府は、かなり「したたか」であると言えるでしょう。
【了】
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。
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