貨物船でも中は“家”並み 世界初の電動タンカー「あさひ」登場 海の働き方に革命?
これではアカン! 内装に込めた思い
旭タンカーの澤田さんによると、この船の標準的な充電時間は9時間とのこと。朝に出航して夜に帰港し充電という運用が可能だそうです。「スイッチひとつで船を起動できるので、内燃機関の船のような暖機運転も必要ありません。そのために1時間早く出勤するようなこともなくなります」とのこと。
EV船はこのように従来の船の運用を大きく変えるものになりますが、それは言い換えれば、船員の労務環境が大きく変わることを意味します。澤田さんが「サラリーマンのような働き方が可能になる」と話していたのが印象的でした。
「これまで、長いときで2週間も船に乗りっぱなしで、若い人がなかなか定着しない課題がありました。これをデザインの力で変えたい、ここで働いてみたい、と思える船を目指しました」
こう話すのは、船の内外のデザインを手がけた株式会社イチバンセンの川西康之さんです。JR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS 銀河」や、観光船「シースピカ」などを手がけたことで知られます。
なかでも川西さんが力を入れたのが、リビングのような船員室だそう。コミュニケーションが生まれ、会話が弾む環境を目指したそうです。上から下までの吹き抜けも、周囲の反対を押し切り、1室分のスペースを削ってでも設置したのだとか。
「コミュニケーションのなさがチームワークの乱れにつながります。そのような環境で働く船員が、日本の物流を支えている……これではアカンと思いました」(川西さん)
旭タンカーは今回のEV船を、世界市場へ売り込みたい考えです。赤系の複数色を使った外観も、その宣伝塔とする目的があるそう。
ただ、課題は従来船の1.5~1.6倍ほどかかる建造コストだそうです。それでも、世界的に環境意識が高まり、船員の不足から労務環境の改善も急務となるなか、この船がひとつの「答え」になる可能性があります。
【了】
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