「真珠湾で日本がハワイ占領していたら…」が絶対にムリだったワケ 旧海軍も頭を抱えた力の差

陸上兵力はどれくらい必要?

 なお、開戦時のハワイには2個師団が配備されていました。太平洋戦争末期の沖縄戦を例に出すと、アメリカ軍は沖縄本島を攻略するにあたり、本島配置の日本軍2個師団1個旅団などに対して、7個師団を投入していますが、圧倒的な航空兵力+戦艦による艦砲射撃という自軍有利な条件ながらも、攻略に3か月を要しています。

 つまり、アメリカ軍でもこのような状況ですから、日本軍がハワイを攻略するのは、極めて難しかったと考えられます。仮にハワイ攻略にあたって、奇跡的に日本軍輸送船団が無傷で到達・上陸できたとしても、オアフ島だけで沖縄本島より3割ほど大きな島です。ハワイ諸島の主要8島は300kmほどの横幅で分布し、面積を合計するとその広さは四国に迫るほどです。そして日本側は空母が帰還した後、航空兵力ゼロで戦うことになるので、隣の島に移動することすら、困難だと考えられます。

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ミッドウェー海戦前の1942年5月11日、航空機を載せて太平洋を航行する空母「エンタープライズ」。左後方に続くのは給油艦「サビーネ」(画像:アメリカ海軍)。

 開戦時にハワイを攻略するなら、史実の南雲機動部隊とは別に、要塞砲を制圧する戦艦部隊と、守備側の3倍となる陸軍6個師団を輸送できる大輸送船団が必要になるでしょう。南方作戦に投じた陸軍兵力の倍ですから、この作戦だけで日本の保有燃料の大半を消費し、大規模増援は送れなくなります。ちなみに、ハワイ攻略に戦力の大半を投入することになるため、史実通りの南方作戦は行えなくなり、そうなると東南アジアの油田などを占領できなくなることから、燃料確保の見通しも立ちません。

 あと、ひとつの意見として「真珠湾攻撃時に燃料タンクを破壊していたら」という論説も見受けられますが、真珠湾の燃料タンクは総計で52個もあり、それらが3か所に分けられ、トータルで72万キロリットルの燃料が貯蔵されていました。タンクは一つ一つ区切られており、誘爆などの被害拡大は望めそうにありません。

 加えて、アメリカ軍には複数の給油艦からなるタンカー部隊が複数ありました。たとえば第8役務部隊の場合、この部隊だけで洋上給油能力を持つ給油艦10数隻を保有しており、総数13万キロリットルの燃料を運べたといいます。こうした複数のタンカー部隊でハワイに常時、燃料を届けていたのです。つまり、仮に燃料タンクの破壊に成功したとしても、アメリカ側は給油艦群で対応可能だったといえるでしょう。

 結論として、日本は太平洋戦争開戦時でも、また仮にミッドウェー海戦に完全勝利したとしても、ハワイ攻略は極めて困難だったと考えられます。ちなみに戦前、旧日本海軍もハワイ攻略を検討したことがありますが、「連合艦隊のすべてを投入しても攻略は不可能」という結論に至っていたそうです。

【了】

※一部修正しました(6月23日15時00分)。

【燃料タンク、多っ】空から見た開戦直前の「真珠湾」 写真で見る

Writer: 安藤昌季(乗りものライター)

ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。

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