世界初「EVタンカー」の衝撃 フェリーなど新船も続々 環境対応だけでない“革命”とは

EV船で仕事が激変した職種は?

「あさひ」の導入によって、最も大きく変わったのは機関士の仕事です。ディーゼル船では行っていた、事前にエンジンの準備を行う朝のスタンバイ作業がなくなり、メンテナンスの仕事も大きく削減することが出来ました。

 澤田さんは、「運航水域を限定する内航船は陸上に住む(通い勤務の)乗組員が多いため、サラリーマンのような働き方ができる。そのなかで、エンジンスタンバイの時間が無くなったことは大きい(労務時間の削減につながる)。陸上が先行している働き方改革についていかないといけない」と話します。

 さらに電動化によって機関室のスペースが小さくなり、居住区のレイアウトを柔軟に配置できるようになりました。

 船体のカラーと内装を手掛けたイチバンセンの川西康之取締役は「これまでの内航船は自然光が入ってこなかった。『あさひ』では吹き抜けを設けることで、居住エリアを中心に人の気配がわかり、光が入る、地上の建物に近い環境を作り上げた」と述べています。

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「あさひ」が母港とする川崎港。2番船の就航を前提に給電設備が2か所設けられている(深水千翔撮影)。

 また、「あさひ」が搭載しているバッテリーは、船内の電力だけでなく陸上に電力を供給する機能も備えています。これにより自然災害などで陸上送電設備がダウンし、道路や送電インフラが寸断されても、海上から被災地付近の港へ急行することで、消防・病院・避難所といった拠点となる施設に向けて大容量電力の供給が可能となります。

 そのため船自体が災害時の非常用電源として、BCP(事業継続計画)対策や地域LCP(生活継続計画)につながる新たな役割を担うことが期待されています。

 e5ラボの末次CTOは「災害時に電力供給ができるという新しい価値が船に生まれる」と話したうえで、「たとえばフェリーを電動化すれば、人や車だけでなく、エネルギーも運べるようになる。海事業界が先陣を切ってゼロエミッション化を進め、EV船を世界に売れるようにしていきたい」との考えを示しました。

【了】

【まさかの“トラ柄”船!?】今後就航するEV船 画像で見る

Writer: 深水千翔(海事ライター)

1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。

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