海をゆく原発、30年無補給で航行の船… 造船業界「原子力」に熱視線 国際競争は始まっている

世界のエネルギー企業と造船業界が、「原子力」をめぐり急速に距離を縮めています。船型の原子力発電所や、その原子炉を動力に活用する高速船などが次々と計画。エネルギー危機を背景に、国際的な競争も激しさを増しそうです。

現実味帯びる海の原発 「1年で10基いける」

 船を海に浮かぶ原子力発電所に――そんな構想が現実味を帯びてきています。

Large 220707 atomic 01

拡大画像

ノルウェーのウルスタインが発表したMSR搭載の原子力補給船(奥)と、同船から供給される電気を利用する電動クルーズ船のイメージ(画像:ウルスタイン)。

 イギリスに本拠地を置く海洋原子力プロバイダーの「コア・パワー(CORE POWER)」は日本の造船会社などと協力し、溶融塩炉(MSR)を搭載する浮体式の原子力発電所を計画しています。2026年以降にMSRの実証試験を行い、2030年代前半の実用化を目指しています。

 同社のミカル・ボーCEO(最高経営責任者)はロシアのウクライナ侵攻を機に発生しているエネルギー危機を念頭に置き「こういった国々や政権に頼らず、エネルギーの独立性を確保しないといけない」と指摘。「このソリューションは安全保障や脱炭素、エネルギーのゼロエミッション化に向けた正しい方向の解決策だと考えている。造船所で建造できるため、発電所とはいえ日本の造船技術を有効に活用することが可能だ」と期待感を示しました。

 コア・パワーが考案した浮体式原子力発電所は、円形の船体をしています。船体周囲のアンカーシステムを用いて海上に固定して運用するため、強い海流域や流れが速いところでも設置できるよう安定した構造。ポーCEOは「津波や地震にも耐性があり影響を受けない。悪天候にも耐えることができる」とメリットを説明します。

 原子炉とそれを囲む冷却材のスペースは喫水線下に置き安全性を確保。喫水線付近にポンプ室や機械室を、喫水線より上に発電所を運営する職員が働くコントロールルームや事務室、宿泊設備などを設置しています。甲板上にはヘリコプターデッキやクレーンといった人の移動や物資の搬入・搬出に対応した設備も設けました。

 メインデッキの直径は90mで全高は53m。載貨重量は6万1000トンと、だいたい中型バルカー(ばら積み貨物船)と同じくらいの重さです。原子炉を構成するMSRユニットの重さは1万2000トン程度。出力は最大1.2GWで、200万世帯の家庭電力を賄えるといいます。コア・パワーは年間13億ドルの収益を生み出すことができると試算しています。

 しかも、造船所で連続建造することを想定した設計になっており、ポーCEOは「これまでは10年以上かけて1基の原子力発電所を建設していたが、MSR浮体式発電所なら1年で10基を作れる」と胸を張ります。

【原発、だけじゃない】海に浮かぶ「複合クリーンエネルギー工場」のイメージ 画像で見る

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

2件のコメント

  1. もし「20キロ以内立入禁止」級のトラブルに見舞われたら沖合20キロのところまで漕ぎ出してゆくことで陸地に帰宅困難地域を創らないようにする、というコンセプトなのでしょうか

  2. で、そういう原子炉の燃料は、核拡散禁止条約の対象で、核保有国じゃ無いと管理できんのだがな。
    世界は技術だけで廻っていないのだよ。