「戦車の電動化」見えてきた! ハイブリッド装甲車が初登場 エコより大事なメリットとは
エンジンは発電用
GENESISはディーゼル・エンジンで発電し、その電気をリチウムイオン蓄電池に供給し、モーターで走行するハイブリッド機関を使用しています。
高速で長距離を走行する場合は、ディーゼル・エンジンをずっと稼働させて蓄電池へ電気を供給し続ける必要がありますが、低速かつ短距離であれば、蓄電池に貯めた電気を用いモーターのみで走行できます。
市販のハイブリッド車が普及し始めた頃、モーターのみを使用して走行するハイブリッド車が静かすぎて、接近している事に気付かなかったという経験をされた方も少なくないと思います。その静粛性を、軍用車両が手に入れられるわけです。
現在軍用車両で一般的に使用されているディーゼル・エンジンはガソリン・エンジンに比べて被弾時に火災が生じる可能性が低く、また燃費が良いという長所を持つ半面、走行時に生じる音が大きいという短所があります。
走行時に生じる音が小さく、それゆえに敵に発見される可能性を低減できるハイブリッド機関は、偵察車両にはうってつけであるのは確かです。
GENESISは特定の軍隊からの要望に基づいて開発されたものではなく、FFGにはユーロサトリで展示されたGENESISを特定の軍隊に提案する考えもないようですが、その一方で同社は、ドイツ連邦軍が運用している偵察用軽装甲車「フェネック」の後継車両にGENESISの開発で得たハイブリッド機関の技術を提案する考えを示しています。
ハイブリッド装甲車 レーザー兵器にゃ持ってこい?
アメリカやドイツなどではドローン迎撃の切り札として、レーザーのような“指向性エネルギー兵器”の開発が進められています。これを車両に搭載する場合、必要な電力をどのように供給するかが課題となっていますが、ディーゼル・エンジンをもっぱら発電用に用いるハイブリッド機関であれば大きな電力を供給でき、指向性エネルギー兵器を搭載する車両にも適しているでしょう。
また、部隊が屋外で宿営する際に必要な電気は、ディーゼル発電機などで賄われています。GENESISは外部に電気を供給する能力も備えており、災害の救援活動でも活用できると考えられます。
FFGはGENESISを環境問題と結び付けていませんが、アメリカ陸軍は2022年2月に発表した、気候変動に対処するための気候戦略で、2035年までにすべての戦闘車両をハイブリッド化する方針を打ち出しています。
アメリカ陸軍の戦闘車両のハイブリッド化には、燃料費と燃料を前線に供給する兵站コストを減らしたいという狙いもあります。同軍は現在運用しているM2「ブレッドレー」歩兵戦闘車を後継する戦闘車両「OMFV」にハイブリッド機関の採用を検討していますが、その理由の一つとして、部品や燃料にまつわる補給コストの低減が見込めることを挙げています。
実際にハイブリッド機関を使用する戦闘車両を軍へ導入するにあたっては、整備員の再教育など解決しなければならない課題もありますが、日本でも防衛装備庁がアメリカと共同で、既存の車両をハイブリッド化する「モジュール型ハイブリッド電気駆動車両システム」の共同研究を2020年から開始するなど、先進諸国では戦闘車両のハイブリッド化に向けた取り組みが加速しています。
【了】
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。
墓の中からポルシェ博士が復活して狂喜乱舞しそう…
一般車と違って衝撃や過熱の影響を受ける可能性が高いので蓄電池のリチウム発火の問題がクリアされないと車体重量が装甲車なのに戦車並みで兵站の問題が発生しそうだけど今後の技術革新に期待と希望が湧く記事ですね
潜水艦なんか遥かに昔の大正時代に同じような目の付け所でディーゼルエレクトリック方式を実用化してたんだよな。ある意味オーパーツ。