凝りに凝ってる100年前の鉄道高架 万世橋付近の中央線 レンガ高架橋の形状が違うワケ

高架下に入る飲食店 空間の有効活用に寄与した「ラーメン構造」とは

 万世橋~神田間の高架橋を見てみましょう。写真は歓楽街の神田駅付近を捉えており、飲食店の煌々とした灯りとレンガ高架橋の対比が面白く、夕方から薄暮の時間帯の撮影です。この高架橋は1916(大正5)年に着工し、鉄筋コンクリート構造となりました。一見するとレンガ構造に見えるのは、先に開通したレンガアーチ高架橋と景観を合わせるため。コンクリート剥き出しでも性能的に問題ないところ、わざわざレンガを貼り、一体感を演出しました。

 興味深いのは、同区間はすべてアーチ構造ではなく、一部の軟弱な地盤には桁式構造やラーメン構造が用いられ、アーチ構造とミックスする形状となっている点です。ラーメン構造とは、鋼材などの部材を枠状にして接合箇所を剛接合(一体化)した構造のことで、軽量化に寄与するとともに、高架橋において連続的に使用すると、より剛性が高くなります。鉄筋コンクリートアーチは重量が増すため、軟弱地盤にはラーメン構造が用いられました。また神田駅では高架下が四角い空間となり、有効活用ができる桁式構造となり、御茶ノ水~神田間という短い区間で、それらの構造の違いを楽しめるのです。

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神田駅のある第2鍛冶町橋高架橋は、アーチ構造ではなく桁式構造。四角い空間が惜しみなく店舗と倉庫に利用されている。右端の架線柱は1919年開通時から残存していたもの(2009年3月、吉永陽一撮影)。

 先に登場した紅梅河岸高架橋と比較すると、高架上部にデンティルは確認できるものの装飾は少なく、簡素なつくりです。ちなみに竣工時、道路に面していない裏側はコンクリートが剥き出しでした。

 薄暮、神田駅付近のレンガ高架橋にはしっとりとした質感が浮かび上がります。2022年3月と7月、私は高架橋の脇を歩きましたが、アーチ、ラーメン構造、桁式構造といろいろな工法がミックスされ、レンガがギラギラと光る飲食店の明かりに反射し、艶めかしくも幾何学的な姿にうっとりしました。

 神田駅は東側が東北・上越新幹線と上野東京ライン高架橋の増設、内部が駅改良と耐震化工事によって変化してきましたが、レンガ高架橋の姿は健在で、現在でもアーチやラーメン構造にすっぽり収まるようにして飲食店が軒を連ねています。この13年で変化したもの、13年どころか何十年も変化していないもの、黎明期の高架橋はいつ見ても飽きません。

【了】

【写真】レンガ造りの高架橋を渡るJR中央線201系 在りし日の「交通博物館」も

Writer: 吉永陽一(写真作家)

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。

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