これも自走砲!? ミリタリーテイスト満載「ベスパ」出自には熾烈な植民地紛争が関係

フランスの苦境が開発の発端

 なぜこのような車両を開発したのかというと、当時のフランスが置かれていた状況が関係しています。第2次世界大戦直後の1946(昭和21)年12月から1954(昭和29)年8月まで、フランスは現在のベトナムが独立するのを阻止するため東南アジアで「第1次インドシナ戦争」を戦っていました。

 当時、フランスはまだ第2次世界大戦が終わったばかりで、国全体が疲弊しており、まともな兵器を遠く東南アジアまで運ぶのは困難でした。ゆえに火力は大きいものの、自動車よりもずっとコンパクトで輸送費や現地での運用コストが大幅に安く済む無反動砲搭載スクーターを採用したと言えるでしょう。

 加えて、二輪車のため、輸送機で投下するというようなことも可能です。そこで、戦車や自走砲などを装備することが難しいパラシュート部隊に、まず装備し運用することとしました。

Large 221201 tap 02

拡大画像

ベスパ 150 TAPの後方。座席部分に砲身が大きく張り出しており、走りながら撃つのは無理そうなのがわかる(アルフ・ヴァン・ベーム撮影)

 その戦法は、まず、2台のベスパ 150 TAPとともに2名の兵士を降下させ、1台のベスパに無反動砲を、もう1台に弾薬を搭載して戦闘地域へ急行させるというものでした。そして、なるべく早く敵を発見し、停車、または無反動砲をおろし待ち構えるという想定をしていました。

 実は走行中での砲撃は考えていませんでした。無反動砲といっても反動がゼロという訳ではないため、走行中に砲を発射した場合、最悪ひっくり返る可能性もあったようです。さらに砲身は車体に対してやや斜めになってセットされているため、乗った状態で照準するのはまず無理です。しかも、運転席は砲の上につけられていたため、おそらくそのまま発射したら火傷どころでは済まなかったでしょう。

 なお、第1次インドシナ戦争には、この「無反動砲搭載ベスパ」は間に合わなかったものの、その後も研究は続けられ、当時まだフランスの植民地で独立の気運がくすぶっていたアルジェリアでの過激派などとの戦いに備る目的で、1950年代後半には完成したようです。ただ、実戦で使用されたかどうかは定かではありません。

 ちなみに、ベスパとは日本語にすると「スズメバチ」という意味ですが、敵に対して手痛い打撃を与える大口径砲を積んだベスパ 150 TAPは、まさしくその名前がピッタリだといえるかもしれません。

【了】

【写真】運用法としては近い? 砂漠で頼れる頑丈なヤツ

Writer: 斎藤雅道(ライター/編集者)

ミリタリー、芸能、グルメ、自動車、歴史、映画、テレビ、健康ネタなどなど、女性向けコスメ以外は基本やるなんでも屋ライター。一応、得意分野はホビー、アニメ、ゲームなどのサブカルネタ。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

1件のコメント

  1. この搭載砲は、有効射程が短いので直接照準射撃を行うと、即座に反撃をくらうのでかなり限定された状況でないと、生還が厳しいんじゃないかな。
    間接射撃を行うにも2人しか作戦に従事していないとなるとそれもかなり無理があるし、まさに決死隊を送り込む感じかな。