日本版「緑の悪魔」に? 北欧製に決定した次期装輪装甲車 日本の産業救う可能性も
陸上自衛隊が導入する次期装輪装甲車が、フィンランドのパトリア社が製造する「AMV XP」に決定しました。海外では高いブランド力を持つ同社の戦闘車両は、輸入するだけにとどまらず、日本の防衛産業を蘇らせる可能性もあります。
ライセンス生産も? 外国の産業を振興させた実績をもつAMV
AMV XPの原型であるAMVはアフガニスタンなどで実戦に投入されていますが、ポーランド軍がアフガニスタンに投入したAMVのポーランド生産型「KTOロソマク」はイスラム原理主義武装勢力から対戦車火器やIED(即席爆発物、地雷による攻撃を何度も受けているにもかかわらず、少ない損害で任務を継続し、イスラム原理主義武装勢力から「緑の悪魔」として恐れられたという逸話を残しています。
そのAMVの改良版であるXPは、AMVのアフガニスタンやチャドにおける実戦の教訓を反映してさらなる防御力の強化を図った装甲車です。有事の際、真っ先に投入される装輪装甲車に高い防御力や乗員の生存性を求めた陸上自衛隊が、その点を高く評価したのではないかと筆者は思います。
防衛省はAMV XPをフィンランドからの直輸入ではなく、ライセンス生産で導入する機会も追及していくと述べています。
前出したポーランド陸軍のKTOロソマクは、ポーランド国内でライセンス生産されています。KTOロソマクを製造したロソマク社は近代的な装甲車両の製造経験を持っていませんでしたが、パトリアはAMVのライセンス生産にあたって広範な技術移転を行っており、その結果ロソマクはポーランド防衛産業の中でも屈指の技術力を持つ企業となっています。
コンポーネントや部品の生産には120社を超えるポーランド企業が関与し、2012年の時点で国産化率94%を達成。AMVのライセンス生産はポーランドの防衛産業の維持と成長に大きく貢献したと言われています。
UAE(アラブ首長国連邦)は数十両のAMVを導入していますが、このAMVはロソマクで最終組み立てが行われ、部品の製造にも同社の下請業者が携わっています。
めざせ「日本製AMV輸出」!?
筆者が以前海外の展示会で話を聞いたパトリアのスタッフは、あくまでも可能性の一つであると断った上で、日本で製造されたAMV XPを輸出する道もあるのではないかと述べています。
装甲車の国外移転は簡単なことではありませんし、そもそもフィンランド政府とパトリアがそのような提案を防衛省にしたのかも不明ですが、国外では高いブランド力を持ち、実戦で性能が実証されているAMV(AMV XP)の輸出は、残念ながら国外でのブランド力が低い日本が開発し、実戦で性能が実証されていない機動装甲車(MAV)よりも、成功する可能性が高いと筆者は思います。
日本の防衛産業は危機的な状況にあり、フィンランド政府とパトリアがそれを許容するのであれば、AMV XPを輸出し、それを日本の防衛産業の維持・育成の手段として利用するのも「アリ」なのではないかと筆者は思います。
【了】
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。
1行目「〜後継として2022(令和5)年度から〜」とありますが、2022年=令和4年です。
いつも楽しみに拝読しておりますが、このようなミスが最近多いように感じます。僭越ながらチェック体制の強化をお願いいたします。
ご指摘ありがとうございます。修正いたしました。
16式機動戦闘車のバリエーションではなく、AMVを新規に採用したのは、組織する能力がなく、兵站を軽んじているからだ。
AMVには、120mm戦車砲を搭載することもできる。
AMVを採用するなら、16式機動戦闘車の調達は終了すべきだ。