絶好調の商船三井、なぜ「新造クルーズ船」を? 日本郵船は一足先に 見据える海運バブルの“次”
2社2隻体制になった邦船クルーズ 5隻になるかも?
しかしコロナ禍以降、商船三井は高水準で推移するコンテナ船市況やタンカーを中心としたエネルギー輸送の増益といったプラスの材料が重なって好業績を挙げています。未曾有と言えるコンテナ運賃の高騰が牽引していたのはもちろん、ばら積み船(バルカー)などのドライバルク事業や自動車船の好調に加え、円安による押し上げ効果などが寄与。2023年3月期は経常利益7850億円、純利益8000億円と過去最高益が予想されています。
ただ、海運業界は常に変動が激しく、好況がいつまで続くかわかりません。商船三井の橋本 剛社長も「社会の正常化に伴い物流混乱が収束に向かう中、コンテナを中心とする一部のセグメントでは、既に運賃市況が下落に転じている。世界経済は全体的に低下傾向にあり、今後の市況悪化に備える必要も生じてきた」との認識を示しています。こうした事業環境の中で同社は投資余力の拡大を踏まえ、2022年度から2024年度にかけて、総額1兆円の投資を実施する計画を打ち立てています。
今回の新造クルーズ船の発注は、海運市況と異なる要因で損益が変動する非海運事業を拡大し、より安定的な利益構造に変革することを目指す取り組みの一環。フェリー事業と共にBtoC事業をより強化していく方針です。
一方、日本クルーズ客船の「ぱしふぃっくびいなす」(2万6594総トン)が2023年1月に運航を終了し、邦船クルーズは日本郵船グループである郵船クルーズの「飛鳥II」(5万444総トン、旅客定員872人)と商船三井グループである商船三井客船の「にっぽん丸」による2社2隻体制となりました。
日本郵船は2021年3月に5万1950総トン級のLNG燃料クルーズ船を新造整備することを明らかにしており、ドイツの造船所マイヤーベルフトで2025年の引き渡しを目指して建造が進んでいます。商船三井の新造クルーズ船は、それより小さい3万5000総トン級ですが、大型客船の接岸に対応していない港湾施設が使えるほか、2隻建造するため柔軟性をもった運航が可能という強みがあります。
ちなみに、「飛鳥II」と「にっぽん丸」が新造船の就航後に引退するかは、まだ検討中とのこと。もしかすると、日本船籍の外航クルーズ船が5隻体制になる日がくるかもしれません。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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