“史上最大の作戦” 陰の功労者「バレンタインDD」戦車とは? 実用的だったのに実戦投入されなかったワケ

実用性高いバレンタインDDが実戦投入されなかったワケ

 結果、625 両のバレンタイン戦車がDD(通称バレンタインDD)へと改修されます。ただ、せっかく完成したのに、ごく一部がイタリア戦線で実戦に投入されただけで、ほとんどはイギリス本土に留め置かれました。というのも、性能で上回るアメリカ製M4「シャーマン」中戦車が、DD(通称シャーマンDD)として多数改修されたからです。

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「バレンタインDD」戦車を前から見たところ。キャンバススクリーンを上げ位置や下げ位置に固定するためのアームが設置されている(柘植優介撮影)。

 しかし、「バレンタインDD」があったことで、アメリカやイギリスの戦車兵たちは、ノルマンディー上陸作戦の開始前に十分な訓練を行うことができました。こうして訓練された戦車兵らは、作戦直前に「シャーマンDD」に乗り換えて、「史上最大の作戦」の第1波として上陸。味方歩兵たちの火力支援や、ときには盾となって早期の海岸堡(いわゆる上陸拠点)獲得に貢献しました。

 こうして、訓練用として大戦を生き延びた「バレンタインDD」のうち、1両がイギリスでいまでも個人所有で動態保存されています。

 ちなみに、「バレンタイン」歩兵戦車の愛称の由来ですが、それについてはいくつかあります。1938年のバレンタイン・デーの4日前に本車の仕様が軍部へ提出されたからだという説。はたまた「Vicker-Armstrong Limited on Tyne」という会社の所在地が徐々に短縮され、「VALonTyne」→「Valentine」となったという説。さらには、同社に務める高名な戦車技術者ジョン・カーデン卿(Sir John Carden)のミドルネームがValentineだったからだという説まであるものの、どういった経緯でこの愛称になったのか、明解な解答は得られていないようです。

【了】

【スクリーン展開!】洗面器みたいになって水に浮く「バレンタインDD」戦車(写真)

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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