零戦じゃない…? 岐阜の博物館にある謎のレプリカ機 『風立ちぬ』の技師が生んだ幻の世界水準機だった

アニメ映画『この世界の片隅に』監督もお手伝い

 このように零戦の原型となった十二試艦戦。初飛行した地が各務原であったことから、そのレプリカが岐阜かかみがはら航空宇宙博物館で展示されるようになりました。

 レプリカ製作のきっかけは同博物館の増築です。増床による展示スペースの拡大や展示物の充実などで、2018年にリニューアルオープンすることを計画。それに合わせて展示すべく十二試艦戦の原寸模型が木製で作られました。

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下から見上げた十二試艦戦の原寸模型。操縦席下にあたる下面にはのぞき窓が、両翼下面には爆弾用と思われる懸吊架が見える。試作機時代の特徴であった2枚プロペラに注目(吉川和篤撮影)。

 ちなみに、当初はリニューアルオープンの目玉として前述の映画『風立ちぬ』に関する特設コーナーを作るプランもあったそうですが、それは実現しませんでした。ただ、堀越技師の代表作である零戦にちなんだ展示の検討を重ねた結果、各務原で飛行した最初の姿を紹介するため、量産型の零戦ではなくあえて十二試艦戦が選ばれたそうです。

 十二試艦戦の原寸模型の製作にあたっては、アニメ映画『この世界の片隅に』で監督を務め、自身も零戦を研究している片渕須直氏が塗装色の監修を行ったほか、数々の日本陸海軍機の研究家らの協力も得て完成に至っているため、レプリカとはいえ極めて精密なのが特徴です。

 前述したように同機は、量産型である零戦と比べて後部の胴体が短く、尾翼付近で細くなり水平尾翼の位置が低くなっているなど細かく異なっています。またプロペラは2枚式でスピナー(先端の三角形型のカバー)もなく、アンテナ支柱は前方に傾斜するなどしており、そういった違いも見事に再現されました。なお、前出のマスバランスも、水平尾翼の昇降舵下面に再現されています。

 一見すると零戦、でもよく見ると別の機体という岐阜かかみがはら航空宇宙博物館のレプリカ「十二試艦戦」。こだわりの詰まった機体は、今日も天井から博物館を訪れた人々に対して、岐阜・各務原における航空機産業の関わりとその歴史を伝えています。

【了】

【零戦の飛行する姿も】十二試艦戦ならではのポイント「マスバランス」を写真でチェック!

Writer: 吉川和篤(軍事ライター/イラストレーター)

1964年、香川県生まれ。イタリアやドイツ、日本の兵器や戦史研究を行い、軍事雑誌や模型雑誌で連載を行う。イラストも描き、自著の表紙や挿絵も製作。著書に「あなたの知らないイタリア軍」「日本の英国戦車写真集」など。

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