H3ロケット打ち上げ「失敗」? いえ「中止」です! 実は“まだ飛んでいない” その定義

「失敗」って言いたい人々へ

 今回のような第一段エンジン点火後の緊急停止は、冒頭に記したように今回が初めてではありません。1994(平成6)年8月、今から29年前のH-IIロケット2号機を打ち上げる際もありました。

 H-II 2号機は、その後、原因の特定と機体の再点検を経て、10日後に打ち上げられています。燃料を抜き、整備施設に戻して点検後に再打ち上げという段階を踏んでおり、今回のH3も同様の流れになるでしょう。とはいえ、記者説明会でH3プロジェクトを統括する岡田プロジェクトマネージャーが「(H3とH-IIは)どこから信号が出るかなどは設計が違う」と述べたように、H-IIとH3は機体やシステムの設計が異なるため、起こった事態は同じでも原因が同じであるとまでは考えにくく、比較対象としては参考程度と捉えた方がよさそうです。

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H3ロケットの概要。本体の両脇に付く小型の固体ロケットブースタが「SRB-3」(画像:JAXA)

 前出のように打ち上げ中止についての記者説明会から、今回の一件は「失敗」ではないのか、という見方が一部に根強くあることが見て取れました。ここで改めて「成功」「失敗」「中止」といったロケットの成功度に関わる言葉を整理してみましょう。

 ロケットの目的は、積荷である宇宙機(人工衛星や人工惑星、有人宇宙船などを総称した用語)を目指す軌道に送り届けることです。この観点からすると、成功と失敗は次のように言うことができます。
 
・成功=打ち上げの結果、宇宙機を目指す軌道に送り届けることができた。
・失敗=打ち上げの結果、何らかの原因で宇宙機の軌道投入に失敗した。
・部分的成功(部分的失敗)=宇宙機を軌道投入したが、目的の軌道ではなかった。または、複数機の打ち上げで一部の宇宙機の軌道投入に失敗した。

 今回の事態は、このなかにはありません。成功も失敗も“打ち上げ後”に決まるものですから、そもそも打ち上がっていない以上、「天候不順による打ち上げ中止(あるいは延期)」や「設備トラブルによる打ち上げ中止」と同様に、「ロケット側の不具合による、発射直前での打ち上げ中止」というのが最も順当な言い方ではないかと筆者(東京とびもの学会)は考えています。

 発射準備が整ってからの打ち上げ中止は、原因こそ様々ですが、ロケット打ち上げでは決して珍しい出来事ではありません。

 今回は第一段エンジン燃焼開始後の中止という派手な見た目でしたが、あくまでも設計時の想定内で安全に止まり、機体も衛星も残っている以上、「中止」ととらえるのがふさわしいでしょう。

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コメント

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6件のコメント

  1. 『中止』とか『失敗』とか見た人それぞれ言論は自由のはずです。
    あれから何日経ちましたか?
    単語の使い方よりも、これから先如何に改善がなされるかが重要ではないのでしょうか?
    少なくとも予定日に成功しなかった要因が想定外であった事と、ロケットは無事であることは事実です。
    関係者でもない人々がひとりの記者の言葉ひとつに騒ぎ立てる必要は無いと思います。。記者会見で記者の発言に規則があったのならば別でしょうが、記者が感じたことを自由に発言しただけのことで、それが世間一般の意見とは限らない。
    それよりも次にどう対策を立てるのか、暖かく見守りたいですね。
    宇宙の歴史に比べればほんの一瞬の立ち止まりです。
    資金は国民の税金を沢山使っているのでしょうから、最悪の事態を回避し確実に一歩進んでくれていることを願います。

  2. 天候の問題もクリアしメインエンジンも点火したのに、プログラムが異常検知して補助エンジンに火が付かなかったということは、マシントラブルが発生したということだから結局は失敗では?
    打ち上げ前に止められたから大失敗にはならずに済んだが。

  3. なぜこの技術の粋をあつめたロケットは垂直に帰って来れないんですか?

    • H3は端的に言えばH2のコストダウン版であり、そういった機能があれば理想的なのですが日本の国力を結集してもアメリカの民間企業には敵わないのが現状なのです。
      私も仕事で失敗して悔し涙を流せば周りが感動してくれる環境で働きたいものですね。

  4. 「失敗」じゃなくて「中止」で正しいですよ。ロケットには打ち上げ成功率って指標があって、成功・失敗の定義はほぼ万国共通です。(目的達成/打ち上げ回数で計算)

    H3は打ち上げてもいませんから、成功にも失敗にもカウントされません。

    打ち上げ再開できる状態を維持してるんだから、日本語としても「中止」⇔「再開」の関係にあるのは明らかでしょう。「失敗」言いたい人の中では「失敗」⇔「再挑戦」になってるみたいですが・・・

  5. ・成功=打ち上げの結果、宇宙機を目指す軌道に送り届けることができた。と説明しているのに、宇宙機を目指す軌道に送り届けることをできなかったことをなぜ、「失敗」と表現しないのか不思議。ちゃんと「失敗」と言って対応していれば、本日のような「失敗」は起きないと思う。この論理で行くと、破壊指令はちゃんと機能したので、失敗ではないと言う論理になるのだろうな。人は失敗を経験して成長していくものだと思う。失敗を失敗と認識しなければ、成功はないと思う。