安い! 地味! バレない! 各国がナメきっていた気球 高空でこっそりなにしていたの?

スパイ気球の先達「ゲネトリクス計画」とは

 この「ふ号」を参考にしたかはわかりませんが、第2次世界大戦期以降アメリカも、ジェット気流を使った気球の軍事利用を始めます。そのひとつが「ゲネトリクス計画」です。

 冷戦で対立するソ連など東側を偵察するために、風上にある西側からフィルムカメラを載せた偵察気球を飛ばすというもので、ソ連軍が迎撃できないとされる高空の偏西風に乗せて、西ヨーロッパからソ連を横断させ、極東日本の周辺で気球とフィルムを回収しようとします。

 アメリカ軍は1956(昭和31)年1月10日から2月6日まで、ノルウェー、スコットランド、西ドイツ、トルコの5つの発射場から合計516機の気球を放ちます。極秘計画でしたが、これだけの気球を飛ばしたがためにソ連もさすがに察知して、2月4日にアメリカへ抗議しています。

 この計画における偵察気球は、戦闘機では迎撃が難しい高度15kmから30kmを飛行したものの、夜間に気温が下がると高度も下がり、戦闘機でも迎撃できたようです。何機が撃墜されたかは不明ながら、太平洋で回収できた気球は54機で、使える写真は31枚だけでした。その後、高高度偵察機や偵察衛星が運用されるようになりますが、コストはけた違いですし、気球の特性もあり、軍事利用は無くなりませんでした。

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2023年2月4日に撃墜された中国偵察気球の推定飛行ルート(画像:M.Bitton、CC BY-SA 3.0 〈https://bit.ly/3EAzoyO〉、via Wikimedia Commons)。

 知られざる任務を秘めながら、「たかが気球」と、ローテクでフォローされにくいという隙を突いた格好なのが、今回の気球事案です。偵察気球には低コスト以外に、自己の存在を示す赤外線などのエネルギーの放出、いわゆるシグニチャーも少ないので発見されにくく、さらには人工衛星より高度が低く速度も遅いので精緻な画像や多くの電磁波サンプルを収集できる、といった利点もあるのです。

 中国は2006(平成18)年4月から、すでに100基以上の地球観測衛星と称する各種偵察衛星を打ち上げて偵察監視網を構築しています。一方で多数の偵察気球も飛ばしていることがわかりました。先にふれたように気流を使えば飛行コースの制御も可能です。偵察衛星の隙間をカバーしようとしたのでしょうか。FBIによる気球の分析結果が待たれます。

 ほかにも、フォローされず密かに威力を発揮している曲者のローテクがあるかもしれません。

【了】

【画像】UFO騒ぎの一因か 冷戦期東欧の空を騒がせた気球

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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