「ウクライナをNATOへ」の証? レオパルト戦車の大量供与に見える“戦後” ロシア系兵器一掃か

既定路線化しつつあるウクライナのNATO加盟

 その一方、現在のウクライナ国内の軍需品の生産能力では、今回の紛争において最前線で損耗される莫大な量をカバーしきれません。そこで苦戦する同国を物量面から支援するべく、NATOを始めとした西側各国は各種兵器や軍需関連物資を大量に供与するようになりました。

 初期には、ウクライナ軍の規格に合わせて、東ヨーロッパ諸国からロシア規格の兵器が供与されましたが、損耗分の補充に加えて質的・量的なフォローも果たすべく、続いてアメリカ規格とも呼ばれるNATO規格に合わせた兵器の供与も始まりました。

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ウクライナ国旗を掲げて隊列を組むウクライナ陸軍のT-64戦車部隊。この戦車は旧ソ連時代に開発されたものでロシア系規格で造られている(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 その結果、ウクライナ軍内部には、従来のロシア規格の兵器と、新しく入手したNATO規格の兵器という、いわゆる規格の「二本立て」が生じています。もちろん、燃料やオイル類などについてはどちらの規格でも大差はありません。しかし銃砲弾などは、ほぼ互換性がないといえるでしょう。

 ただでさえ、互換性のなかった各種大砲や自走砲などに加え、今度はそこに「レオパルト2」や「レオパルト1」、M1「エイブラムス」などの大量供与が決まりました。これら戦車はウクライナが渇望していた兵器とも伝えられていますが、陸戦兵器の目玉たる戦車にNATO規格の車種が大量に入ってくるのは、ある意味、ウクライナ軍全体がいずれは従来のロシア規格からNATO規格への移行を決定したことの表れだと言えるでしょう。

 規格の移行が始まってしばらくのあいだは、補給の面でやっかいな「二本立て」の規格に対応し続ける必要があります。しかし兵器は消耗品であり、ロシア規格の各種兵器が苛酷な実戦下で使い潰された後に、NATO規格の同様の兵器が補充されることで、一定期間のうちに後者への移行は終了すると考えられます。

 この規格の移行は、当然ながら「戦後」も見据えたものです。終戦(停戦)となるのが移行の途中、あるいは移行後なのかはわかりませんが、「舵がきられている方向」は間違いなく、ウクライナのNATO加盟だと読み取ることができます。

 そして、「NATO規格の塊」ともいえるレオパルト1および2や、M1エイブラムスといった主力戦車の大量供与決定こそ、アメリカをはじめとしたNATO諸国が、将来的にウクライナがNATOへ加盟するのを認めたという証左であると同時に、そのようなNATOの意向を示すことで、戦況によっては核の使用を匂わせるロシアを牽制するための、間接的な強いメッセージでもあるのではないかと筆者は捉えています。

【了】

【続々と結集中!】ウクライナに供与されるNATO規格の兵器たち

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Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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コメント

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3件のコメント

  1. 欧州のNATO各国はウクライナが味方になればロシアの脅威がより遠くになるからそういった意味では西側が支援を始めたときには考えてたのかも

  2. ついでに言うと、EUへの加盟も既定路線だと思います。
    既にEU加盟の前提条件となる腐敗の排除を昨年末から開始していて先月は政権内のかなりの高官や大臣クラスの家宅捜索と逮捕をやってますからね。

  3. EU加盟はあってもウクライナのNATO加盟はないのでは。プーチンが首を縦にふるわけがない。停戦するにはウクライナの非加盟は絶対条件だと思うけど。いずれ停戦すると思うけどこの記事の予想が当たるといいですね。。。ウクライナにとっても。