ロシア専門家 小泉 悠が説く ウクライナ紛争「落としどころ」は? プーチンは拳を下ろすか

開戦から1年 予想される今後の展開は?

 今後について言えば、ロシアは、東部における戦果の拡張を図るはずです。ロシアは部分動員で招集した予備役の全力をまだ東部戦線に投入していないと見られるため、ウクライナ軍の防衛線に大きな穴が空いたら、控え置いていた予備戦力をただちに送り込んで決定的な打撃を与えようとするでしょう。

 他方、ウクライナ側にしてみれば、当面は東部戦線で持ちこたえつつ、ロシアの攻勢が弱まったところで反撃に転じようと企図している可能性が高いと思われます。したがって、今後しばらくの間は、「1:ロシア軍の攻勢が成功するのか」「2:仮にウクライナがそれに耐え切れた場合、反撃に出るだけの戦力の余裕が残されているのか」「3:ロシアやウクライナそれぞれの攻勢がどの程度の成果を挙げるのか」、この3点が焦点になるでしょう。

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BMP-2歩兵戦闘車をバックに写真に収まる2人のウクライナ兵。同国軍の士気は旺盛のようだ(画像:ウクライナ国防省)。

 このうちの「2」に関しては、年明け以降に取り沙汰されてきた西側からの軍事援助の拡充も大きな影響を及ぼすと捉えています。

 西側諸国はすでに多数の榴弾砲や旧ソ連製装甲戦闘車両(戦車を含む)、短射程の精密攻撃ミサイル、対レーダーミサイルなどをウクライナへ供与していますが、今年(2023年)1月には西側製の第3世代戦車や歩兵戦闘車、そして射程150kmを誇るGLSDB(地上発射型小口径爆弾)の引き渡しまで決まっています。

 ただ、西側諸国はこれまで、第3世代戦車の供与がロシアの過剰反応を招く「レッドライン」なのではないかという恐れを強く抱いてきたことなどから、実際、供与が決まってからも各国の動きは極めて鈍い模様です。ウクライナが強く求めてきた戦闘機やATACMSミサイルについては、まだ供与の決定さえなされておらず、仮に今すぐ決まっても戦力化には時間がかかるでしょう。

 最後の「3」については、ロシアもウクライナも互いの戦争継続能力を完全に破壊しえないだろうという見方が有力です。ウクライナがロシアの国家体制を軍事的に打倒できないのは自明であり、厳しい制裁もロシアの財政や軍需生産能力を麻痺させるには至っていません。

 一方、そのロシアも現状では東部のバフムト市ひとつを陥落させるのにも苦労している状況であることから、ロシアにとって圧倒的に有利な条件での停戦(たとえばプーチン大統領が開戦時に掲げた、ゼレンスキー政権の退陣と非武装中立化など)を強要できるほどの決定的成果を挙げるのは難しいのではないでしょうか。

 他方で西側の軍事・経済援助も、たびたび「息切れ論」が唱えられつつも、継続・拡大し続けています。

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