ロシア専門家 小泉 悠が説く ウクライナ紛争「落としどころ」は? プーチンは拳を下ろすか

停戦/終戦に至る落としどころは?

 そうなると、この戦争の「落としどころ」なるものは、なかなか見出しにくいように思われます。少なくとも、短期的にどちらかが圧倒的な優勢を獲得して自らの意志を強要できるような状態はなかなか望み難いでしょう。また、双方の継戦能力が簡単に尽きないことも前述のとおりであり、こうなると戦争はかなり長期化する可能性が高いと言わざるを得ません。

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戦闘で荒れ果てた街にたたずむ親子(画像:ウクライナ国防省)。

 もちろん、ここまで述べてきたことは純粋に軍事的な観点からのハナシであるため、どこかの時点で政治首脳同士の妥協が成立する可能性は排除できません。また、どんな戦争も永遠に続くということはないので、いずれは軍事の領域から政治の領域へと軸足が移ってくることは間違いないでしょう。

 このようなフェーズにおいて、ウクライナ側が考えている「落としどころ」はおおむね判明しています。昨年3月にトルコのイスタンブールで行われた停戦交渉の内容や、同年9月にフォグ・ラスムセン前NATO(北大西洋条約機構)事務総長との連名で発表された「キーウ安全保障盟約」案などを見ると、「1:政権の進退・国家体制のあり方には一切言及しない(ロシアの内政への介入を認めない)」「2:NATOには加盟しない(中立化を受け入れる)」「3:ただし独自の重武装を保有し、平時から西側諸国との密接な安全保障協力を行う」、といったあたりが、ウクライナの描く構想のようです。

 ただ、これはあくまでもウクライナにとっての「落としどころ」であって、ロシアが受け入れるかどうかは全く別問題です。そもそも今回の戦争に関してプーチン大統領が主張した「ゼレンスキー政権はネオナチでありロシア系住民を迫害・虐殺している」「密かに核兵器を開発している」「このまま放置すればウクライナにアメリカのミサイルが配備されてロシアの安全が脅かされる」といった話にはいずれも根拠が乏しく、実際に何を考えて侵略に及んだのかがどうにも判然としません。

 よって、この戦争の見通しに関する最大の不確定要素は、それを始めたロシア自身にあるように筆者(小泉 悠:東京大学先端科学技術研究センター講師)は考えます。

【了】

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