まだ怖い存在…明治時代の電車「ビリビリッ!!」事件簿とは 「近所の銭湯へ感電事故」も!?
令和の時代もお騒がせ「踏切でビリッ」当時からすでにあった
そしてこの頃、盛んに報じられたのが踏切の感電です。同年5月14日朝、陸軍騎兵連隊の騎馬兵が南番場の京浜電気鉄道の踏切を渡ろうとしたところ、数頭の馬が突如悲鳴をあげて倒れ、兵士が転落する事故が発生したと朝日新聞や読売新聞が伝えています。
こうした事象は時代が下っても発生しており、1927(昭和2)年2月26日付朝日新聞は大森付近の踏切を荷馬車が通行中、雨でぬれていた線路に馬の蹄が触れて「感電死」したと伝えています。
これら記事には「漏電」が原因と記されていますが、おそらく電位差による感電だったのではないでしょうか。そうなると馬の死因は感電したことではなく、特に繊細な蹄へのショックで驚いて倒れて骨折などしたことだったと思われます。
実はこの話、つい最近もSNSで話題になりました。愛犬と散歩していたところ、阪急の踏切で犬が「ギャン」と泣いて、踏切嫌いになってしまったというのです。
電車は架線から電気を取り込み、これをレールから変電所に戻すことで回路を構成しているため、レールだけを触っても電気が流れることはありません。
しかし例外として、電車が付近を走行するなどレールに強い電流が流れた場合や、変電所から離れた場所では、レールに数十から百ボルト程度の電圧が生じるため、両足を通じてレールと地面との間に電流が流れてしまうことがあるのです。
先ほどのSNS投稿者の問い合わせに対して阪急も、踏切付近で電車が加速した場合にレールの電圧が変動して電気が流れることがあり、靴を履いている人間であれば感じないものの、素足の犬はショックを受けたのではないかと回答しています(厳密には条件によっては人間も感じることがあります)。
明治末の電車には「電気の取り入れ方」が2種類あり、市内の路面電車で用いられていたのがプラスとマイナスの2本の架線を張る方法(架空複線式)。この方法だと、レールへ電流は流れません。もうひとつが、現在使われている架線とレールを使った方式(架空単線式)でした。
京浜電気鉄道で牛馬の感電が「多発」したのは、当時ではまだ少ない架空単線式を採用していたため、その現象が珍しいので大きく報道されたという背景が考えられます。
いずれにせよ人や荷物の輸送に牛馬が多く用いられた時代ならではのエピソードですが、今も犬だけはそのことを知っているのかもしれません。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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