「海に通勤する船」すら足りない 拡大する「洋上風力発電」に造船は応えられるか 後れをとる海洋国日本
国産船だけで洋上風力発電をつくるには?
日本中小型造船工業会の会長を務める旭洋造船(山口県下関市)の越智勝彦社長は、「対中国、韓国を念頭に置いて新たな分野に挑戦し市場を拡大していくことが必要だ。洋上風力分野などの新たな市場に参入する準備をしていきたい」と意気込みます。
同工業会は、これまで各社が建造経験のないSOVや大型CTVの国内建造・修繕の実現を目指しています。日本財団の助成を受け、欧州設計会社から設計に関する情報を入手するとともに、洋上風発の開発会社や船社などの協力も得ながら課題解決に向けたとりまとめを行い、コンセプト設計を作成する予定です。
特に陸上と洋上風発サイトの間で技術者を運ぶCTVは、建設の始まりから保守維持、解体まで多くの段階で活用できる上、比較的小型の船舶であるため中小規模の造船所でも建造が可能です。現在(2023年3月末時点)、国内では9隻が稼働中ですが、国土交通省海事局は2030年には約50隻、2040年には約200隻が必要になると想定しており、こうした点からも造船・舶用各社はCTVへの期待を寄せています。
一方で洋上風発は欧州で先行して導入が拡大した経緯から、従来のCTVは欧州の海域に合わせた設計で建造されており、うねりの影響が大きい日本周辺海域では、欧州に比べて出航できない日が多くなる可能性あると指摘されています。そのため日本で洋上風発の建設と効率的に進め、維持していくには、日本の海域に合わせたCTVを建造することが必要です。
こうした背景から国土交通省は2023年3月、CTVの国内建造を促進するため安全設計ガイドラインを策定。安全性を担保しつつ、風車メーカーのニーズを取り入れるなど国内造船所がCTVを建造するにあたって留意する事項をまとめました。
国産SOVに関してはKWSがアイ・エス・ビーやヤンマー、川崎重工業と共同で水素燃料などに対応した船型の研究を進めているほか、東京汽船とイーストブリッジリニューアブルの開発したSOVとCLVが日本海事協会から基本設計承認(AiP)を取得しています。
洋上風発の建設と維持には、おのずと船が関わることになります。カーボンニュートラル実現に向けた再生可能エネルギーの一つとして注目されている洋上風発。それを取り巻く船舶の課題と将来の可能性についてもぜひ注目してみてください。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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