敵が同じ地雷使うかも…「戦車の表面ザラザラにしよう!」ドイツが考えた防御法 なぜ続かなかった?
コスパと生産効率から1年ほどで終了
ただ、ツィンメリットは塗るのに手間がかかるうえ、乾燥させるにも時間がかかるシロモノでした。しかもドイツ側の思惑とは異なり、アメリカやイギリス、ソ連などの連合軍側は磁石吸着式の対戦車地雷を使用しませんでした。そこで費用対効果と生産性の観点に基づき、わずか1年後の1944(昭和19)年9月に塗布が中止されています。
ところが1944(昭和19)年後期以降、東部戦線におけるドイツ軍の撤退や敗走が相次ぐ状況下、ソ連軍は、ドイツ製の吸着地雷を大量に鹵獲(ろかく)。これを用いて、ドイツ軍AFVに対し攻撃を仕掛けるようになります。その際、まだツィンメリットが剥離脱落せずに残っていたドイツ軍車両は、自国の吸着地雷に対抗できたという皮肉な話も残っているほどです。
また、大戦末期から戦後にかけて、イギリスとカナダではM4「シャーマン」中戦車、「クロムウェル」巡航戦車、「チャーチル」歩兵戦車、「ラム」巡航戦車などを用いて、カモフラージュも兼ねた、似たようなコーティングの運用試験を実施しました。しかし使用者の危険性がきわめて高い吸着地雷のような対戦車兵器ではなく、代わりにバズーカのような歩兵携行式の対戦車ロケット発射器が主流となったため、結局、イギリスやカナダでは実用化されずに終わっています。
第2次世界大戦中のドイツ軍戦闘車両だけに見られた奇妙なザラザラの外観。実はこれもまた、いかに戦場で生き残るか、試行錯誤した自衛手段の一種だったといえるでしょう。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
プラモでこれ再現する方法が模型雑誌を賑やかしていた時代有りましたね