EUガチ投資中「ヨーロッパから鉄道信号が消える日」やってくる? 100歳機関車も「最新システム」搭載の現場

「最先端技術」は田舎の「最長老の機関車」にも!?

 このタレスの技術開発現場のひとつが意外なことに、1909年の開通当時のままの面影を残す、ドイツの古い路線「カッコウ鉄道(Kuckucksbahnel)」にあります。この非電化路線では、毎年春から秋に蒸気機関車や旧式のディーゼル機関車などが走り、鉄道ファンを魅了しています。その歴史的な鉄道で運転士を務めるトーマス・ケイザーさんは、ETSC開発にあたるタレスのエンジニア。彼の橋渡しで、レトロ機関車が運行していない日にはタレス所有の実験用ディーゼル機関車が走行し、実験室ではできないテストが行われているのです。

 手動切り替えポイントが残る風情ある線路のところどころに鮮やかな黄色のETCSの地上子、ユーロバリスが埋め込まれている風景は、一瞬、違和感があるように感じます。ですが、よく考えると非電化ゆえに線路わきに電気信号機がない同路線は、ドイツ鉄道が目指す将来の路線像そのものなので、理想的なテスト環境なのです。取材当日にトーマスさんが運転していた1927年オーストリア製の蒸気機関車「BBO 378型378.78号機」も、今後ETCS対応にするというのですから驚きです。

 ETCS車上搭載の初期費用は、車両の状態で大きく異なりますが、平均40万ユーロ(約6400万円)と高額です。EUからの補助金はありますが、「初期費用を全額賄えるとは思えないし、故障した時は補助金が再び使えるか分からない」とトーマスさんは語ります。

 隣国に行くことはまずありえない古い蒸気機関車に、高額なETCSを搭載する意味はあるのか。意地悪く聞いてみたところ「苦情は全く出ていない」(トーマスさん)。「みんな結局のところはEU本部を信じているから大丈夫!EUがなんとかしてくれるよ!」と前向きです。欧州内で悲願だった鉄道における欧州統合が実現する日も近そうです。

【了】

【画像】えっ…! これが「最新システムを積んだ100歳越え機関車」です

Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)

アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。

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