「大ピンチのパナマ運河」に強力ライバル!? 250年越しの悲願「メキシコ横断鉄道」開業秒読み 世界を巻き込む物流シェア争いに?

海上貨物を陸送する苦悩 かつては無茶苦茶な計画も

 船で直接大西洋と太平洋を行き来できるパナマ運河に対し、鉄道で両方の大海を結ぶメキシコ。後者の最大のネックは「荷物を船から列車に積みなおし、反対側の港で別の貨物船に積む」という作業が必要なことでしょう。海上輸送の最大のメリットが「大量に運べる」であることを考えると、一度積み込んだ大量の荷物を降ろしてもう一度積むのは大変なロスです。

 実はこうしたことから、19世紀末に計画された案で「並走する3両の蒸気機関車で貨物船をそのまま牽引して所要時間13時間で港から港へ運ぶ」という無茶な計画もあったようです(テオ・ノッテブーム教授、アタナシオス・パリス教授、ジャン=ポール・ロドリグ教授の共同プロジェクト「港湾の経済、管理、政策」より)。

 20世紀初頭の近代化で船舶の重量が重くなったことで、この案はいったん立ち消えとなりました。しかし1940年代に再燃し「1万5000トンの船までなら船ごと陸送できる」と真剣に考えていたものの、さらなる船舶の大型化で再び断念した経緯があります。

 もちろん、ここに「新たな運河」を作ろうという計画も、18世紀末から何度も浮上しては消えてきました。難点は、パナマ運河がある場所は最高地点が海抜26mなのに対して、メキシコでは約10倍の海抜224m。横断距離もパナマ運河の約3倍あります。 1964年刊の米ニューヨークタイムズ紙には、「核爆弾で山を吹き飛ばせば3分の1の予算で済む」など物騒な記述が残っています。また、メキシコと米国の間での政治的なあつれきもあったようです。

 250年来のメキシコの悲願である「大西洋と太平洋を結ぶ物流ルートの整備」案は、異常気象を後ろ盾に宿敵のパナマ運河からどこまで顧客を奪い取れるのか、注目どころと言えます。

【了】

【画像】えっ…!これが「蒸気機関車で大型船を引っ張ってメキシコ横断」する図です

Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)

アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。

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