「海賊だーー!」自衛隊は攻撃できる? テロリスト相手だと“判断”が異なるワケ
ケース1 海賊対処行動
まず考えられるのは、「海賊対処行動」です。海賊対処行動とは、海上(他国の領海は除く)を航行中の船舶を襲撃して、運航を支配したり、財物などを奪ったりする「海賊行為」(海賊対処法第2条)に対処するというものです。先述した「あけぼの」も、もとはといえばソマリア沖での海賊行為に対応する、いわゆる「海賊対処行動」のためにこの地域に展開しています。
ここがポイントですが、海賊対処行動の場合、海賊行為の被害を受けている船舶であれば、日本船籍に限らず、どの国の船舶であっても助けることができます。また、警察官職務執行法第7条の規定を準用しているため、襲撃を受けている船舶を助けるために、護衛艦およびその乗員は武器を使用することができます。さらに、当該船舶が海賊の乗る小型船などによる追跡を受けている段階であっても、これに対応することができます。
というのも、先に紹介した海賊対処法第2条の規定には、対象船舶を奪取するなどの目的をもって「航行中の他の船舶に著しく接近し、若しくはつきまとい、又はその進行を妨げる行為」も、海賊行為と定義しているからです。この場合、制止してもなお追跡を続ける場合は、船の進行を停止させるために武器を使うことができます(海賊対処法第6条)。これは「停船射撃」と呼ばれる行為です。
ただし、海賊対処行動に関しては、対象となる行為が「私的目的」によるものに限定されているという点が問題となります。そもそも、海賊行為については国際法、具体的には国連海洋法条約第101条において「私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為」と定義されています。これは、「私人」が「私的目的」のために行うもので、これは海賊対処法で規定されている海賊行為についても同様だといえるでしょう。
この私的目的については、その範囲に関して国際法の学説上大きな議論があります。とくに、フーシ派のような一定の勢力を有する反政府武装集団による行為をどう取り扱うのかについては、とくに議論があるところです。
したがって、もし護衛艦の近傍でフーシ派による襲撃が発生した場合には、これを海賊行為とみなすべきかどうかの判断を迫られることになります。そうした場合には、とりあえずこれを海賊行為とみなしたうえで対処するという方法も、選択肢の一つとして残しておくべきと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。
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