「調達価格20億円が一瞬で…!」陸自期待の最新自走砲に起きた20年前の悲劇とは?
米国で試験することなく海の藻屑に……
ところが出港から2日目、宮城県沖約1000kmのところで、貨物船は思いもよらない嵐に遭遇します。貨物船は大波に洗われ、固定していた積荷も大暴れの状態になりました。
そして、とうとう一緒に積まれていた民間の重機があらぬ方向へと動き、船体は大きくバランスを崩してしまいます。一旦バランスを崩してしまった船が、嵐の中で安定性を取り戻すことは非常に難しく、最終的に船は沈没してしまいました。
貨物船の乗組員や自衛官たちは救難艇で脱出して、人的被害が出ることはありませんでしたが、次世代装備として関係者が期待していた99式自走155mmりゅう弾砲の試作車は2両とも海の藻屑となってしまいました。
その損害額は、99式自走155mmりゅう弾砲1両の調達価格が約9億6000万円なので、2両で19億2000万円。さらに一緒に運ばれていた155mmりゅう弾砲FH70や99式弾薬給弾車の試作車なども、ともに海に沈んでしまったため、その総額は30億円近くにもなったとか。しかも、船が沈んだ海域は、水深が4000m以上もあり、引き上げは不可能でした。
これに関係者たちはガックリと気を落としたそうですが、損害に関しては後日、保険で賄われたといわれています。
ちなみに、海没してしまった試作車ですが、試験が終了した暁には、朝霞駐屯地の一角にある陸上自衛隊広報センター「りっくんランド」で展示が予定されていたとか。残念ながら、それは叶わず、同地には99式自走155mmりゅう弾砲は収容されることなく終わっています。
4両しか造られなかった99式自走155mmりゅう弾砲の試作車。うち半分が海没で失われましたが、希少な1両が、茨城県にある陸上自衛隊土浦駐屯地で屋外展示されています。
【了】
Writer: 凪破真名(歴史ライター・編集)
なぎはまな。歴史は古代から近現代まで広く深く。2019年現在はフリー編集者として、某雑誌の軍事部門で編集・ライティングの日々。趣味は自衛隊の基地・駐屯地めぐりとアナログゲーム。
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