魔改造の限りを尽くした「スーパー戦車」最後は救急車に!? 「骨の髄まで使い倒す」精神で成長を遂げた軍事大国
ウワモノ変えれば、まだ使えるよね
そこで今度は、さらに大口径の105mm戦車砲CN-105-F1を、砲身を短縮するなどして「シャーマン」に搭載することを計画。こうして生まれたのが、「M51スーパー・シャーマン」でした。
陸上自衛隊で例えるなら、61式戦車よりも古い、創成期に供与されたM4「シャーマン」戦車に、74式戦車と同等に近い砲を組み合わせたような「M51スーパー・シャーマン」は、研究者によっては「究極のシャーマン」と呼ぶほどです。
1962年に完成した「M51スーパー・シャーマン」は、主砲だけでなくエンジンもアメリカ製のディーゼルに換装されており、逐次改修を重ねる形で1980年代中頃までイスラエル軍で運用され続けました。
なお、「M51スーパー・シャーマン」は、イスラエル戦車兵の練度の高さもあって、実戦では、前出のT-55はもとより、より新しく強力なT-62戦車などを相手にしても互角以上の戦いをしています。
しかし、さすがにイスラエルのオリジナル・シャーマンの各型も、主砲の威力は上がっても防御力や機動力は大幅な向上を図るのが難しかったため、国産戦車「メルカバ」の導入と入れ替わるかのように、1980年代に入ると退役が始まり、一部はチリへ売却されました。
とはいえ、イスラエルが入手したM4「シャーマン」の生涯は、これで終わりを遂げたわけではありませんでした。
戦車として通用しなくなると、砲塔を取り払い、車体については 155mm自走榴弾砲M50、155mm自走榴弾砲「ソルタム」L33、160mm自走迫撃砲「マクマト」、シャーマンMRL系多連装ロケット発射器、さらには装甲救急車などに転用されたのです。「二度目のご奉公」といえば聞こえは良いでしょうが、まさにイスラエルの「骨の髄まで使い倒す」精神を垣間見るかのような「魔改造」ぶりでした。
このように、イスラエルのために半世紀近くにわたって使われ続けたM4「シャーマン」戦車は、まさしく同国にとっては「建国の戦車」であり「救国の戦車」でもあったと言っても過言ではないでしょう。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
コメント