「ソ連の戦車、持ってます」 ウクライナ支援に博物館が関わるワケ 謎だらけの東側部品をカタチにする知見
ロシアにも同様の博物館はある
戦争は現在進行中であり、一刻も早い製造開始が必要でしたが、イギリス国内に実車と専門家の協力があったおかげで開発期間を大きく短縮できました。ボービントンの学芸員であるデビッド・ウィリー氏は、「戦車博物館のコレクションは様々な目的で使用されている。産業界や同盟国を支援できるときは当然利用すべきだ。複製された履帯がウクライナに到着すると聞いて非常にうれしく思う」と述べています。
単なるコレクションの展示場に留まらず、産業界とつながりがあるのも戦車博物館が社会に根差している証であり、専門家(愛好家)の知見も趣味(ホビー)だけに留まらず、国益に直接寄与するという実例です。
一方、ロシアにもボービントンに匹敵するクビンカ戦車博物館があります。収蔵されている車両数は300以上といわれ、交戦した敵国、または仮想敵国から鹵獲した車両の評価試験も行っています。第2次大戦末期にドイツが運用した超重戦車「マウス」や、旧日本陸軍の九五式装甲軌道車のようにクビンカにしか現存しない貴重な個体も保存されており、朝鮮やベトナム、中東、南米などで入手した冷戦期の西側車両も多くあります。
ロシア・ウクライナ戦争でも、ロシア軍はアメリカ製M2ブラッドレー歩兵戦闘車など西側車両を鹵獲しています。これらもいずれクビンカに収められ、様々な目的に使用されるでしょう。
日本もまた、世界でも数少ない戦車を国産できる国です。にもかかわらずこのような博物館がないのは、歴史的遺産の保存と展示の機会、教育と研究の機会の欠如というだけでなく、外交、安全保障上の観点からも「日本戦車ガラパゴス」に陥りかねない問題だと思います。
【了】
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。
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