満員電車は「違法」です!? 当たり前に許容される法律のカラクリ “鉄道あるある”100年の議論

「座席があるときだけ」の規定と矛盾しない?

 日本民営鉄道協会の解説は、前出した鉄道営業法第15条との整合性についても記しています。「鉄道営業法には、『乗車券ヲ有スル者ハ列車中座席ノ存在スル場合ニ限リ乗車スルコトヲ得』と規定されていますが、鉄道車両の定員は『サービス定員』ですので違法にはなりません」と結びますが、サービス定員であろうが定員超過に変わりありませんので、これはやや強引な説明です。

 それはともかく、こうした鉄道業界の「公式見解」はいつから存在したのでしょうか。調べてみると1958(昭和33)年の業界誌『国鉄』に、運輸官僚で当時国鉄総裁室調査役を務めていた山口真弘が「定員乗車論」と題して解説しています。

 鉄道営業法の規定について記事は、「労働組合が順法闘争の種にしたんだが、新聞や週刊誌が、法律の欠陥とばかり書きたてた」と記しており、高度成長で激化する鉄道の混雑を背景に、定員乗車をめぐる論争が起きていたことが分かります。

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JR西日本の有料座席サービス「Aシート」。鉄道営業法第15条では、空席のある場合に限り乗車が認められるとされているが……(鶴原早恵子撮影)。

 しかし、いくら待っても座席のある電車は来ないので、法律を守っていては、乗客はいつまでたっても乗れません。積み残しを防ぐには「強いて」乗り込ませるしかないのです。

 鉄道営業法第15条第2項、第26条が「鉄道の実情にかけ離れた規定」であるのは誰の目にも明らかですが、鉄道官僚や事業者は現状を「違法」と認めるわけにはいきません。

 そこで編み出されたのが、第15条第2項は「利用者に座席が存在する場合に限って」乗車する権利があることを指し、座席がないからといって債務不履行を理由とした損害賠償請求はできないことを意味する、という解釈です。

 第15条第1項は「旅客は(略)乗車券を受くるに非ざれば乗車することを得ず」として、事業者と旅客とのあいだの運送契約について定める条文なので、第2項は旅客の権利に関して補強する内容であると整理したのでしょう。

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