爆売れ戦闘機「ファントムII」はなぜ異形の翼に? 傑作機が“あの形”になるまで
傑作機でもあった「弱点」…どう克服?
このアメリカの動きに追従したのがイギリスです。イギリスでも海軍と空軍の両方でF-4戦闘機を採用しました。イギリスが発注した機体は、ゼネラル・エレクトリック製のJ79エンジンではなく、ロールス・ロイス製スぺイを搭載しています。
スぺイはファンエンジンのためJ79に比べ強力で低燃費なのが特徴です。また、機体側面に空気取り入れドアがあるのとエンジンノズルの形状が異なることがイギリス機の外形上の特徴でした。
そのようなF-4戦闘機が最初に経験した実戦がベトナム戦争でした。しかし、そこでは小型軽量のソ連製ミグ戦闘機を相手に苦戦を強いられます。そのミグ戦闘機との空中戦で、F-4戦闘機の空力的な弱点も判明しました。
というのも、急旋回などでしばしば遭遇する高迎え角での機動中に補助翼を操作すると、パイロットが意図した方向とは逆方向に「ヨーモーメント」と呼ばれる力が発生し、機首が操縦と逆の方向を向いてしまい、操縦が難しくなることが判明しました。この現象は補助翼のアドバースヨーとしてよく知られた現象ですが、高迎え角時のF-4戦闘機ではこれが原因で瞬時にスピンに入ってしまう傾向が指摘されていました。
この対策として主翼の前縁と後縁にスラットやフラップ(翼の後縁の高揚力装置)など様々な仕様で飛行実験が行われた結果、スラットが最も効果的であることが判明しました。空軍では1972年から全てのF-4Eにスラットを装備することになり、海軍でも既存機の近代化改修時にスラットを取り付けF-4Sとする工事が行われました。スラットを取り付けたF-4は高迎え角時の飛行安定性とともに離着陸性能も向上したと報告されています。
航空自衛隊のF-4EJにはこのスラットは装備されませんでしたが、レーダー換装をはじめとする能力強化が行われ2021年まで活躍していたことは記憶にも新しいところです。
F-4戦闘機はすでに多くの国では退役していますが、歴史的にも重要な航空機であることは間違いありません。そのため、各国の博物館で保存されていますが、アメリカではF-4Dの一機が歴史保存活動を行っているコリンズ財団により飛行可能な状態で維持されています。航空ショーで往時の勇壮を眺めることもできるでしょう。
【了】
Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)
航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事
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