このままでは乗り換えが永久固定… 西九州新幹線を全通させるには “全く別ルート”の方がメリット大?
関係者全てに利益がある策
なお、総建設距離は50km程度で、武雄温泉~新鳥栖間とほぼ同じです。人口の多い地域は大牟田市内だけで、用地買収は都市部の佐賀駅経由よりも容易でしょう。福岡県内は10km程度の建設で大牟田駅(福岡県大牟田市)に直結でき、そこから新大牟田駅(同)に接続することになります。こうすればJR鹿児島本線や西鉄天神大牟田線沿線からも利用でき、大牟田駅設置は福岡県のメリットでもあります。
また、熊本方面への分岐線を建設すれば、長崎~熊本・鹿児島中央間の直通運行も可能です。現在、長崎駅から熊本駅へは高速バスで3時間45分、鹿児島へは直通便はありません。人口43万人の長崎市と、人口74万人の熊本市、60万人の鹿児島市を1時間台で直結すれば需要を創出できるでしょうし、人口24万人の佐賀市を経由しないデメリットは埋められます。
有明海経由の利点は博多~長崎間でもあります。佐賀駅経由より距離、所要時間ともに短いのです。博多~新大牟田~諫早~長崎間は約131km。計画中の新鳥栖~佐賀~武雄温泉~長崎間だと143.3kmです。最高速度260km/h、表定速度187km/hとした場合、博多~長崎間は諫早駅のみ停車だと42分が想定され、佐賀駅ルートの51分よりも短くなります。
この場合、新大阪~長崎間は3時間3分程度。博多~長崎間を無停車にするか、九州新幹線・西九州新幹線内で300km/h運転が可能となれば2時間50分台も見えてきます。新幹線の建設効果として、主要区間は2時間台で収めるべきであり、こちらの方が長崎県の利益が大きく、建設効果は大きいのではないでしょうか。
なお佐賀県としても、博多~武雄温泉間の特急「リレーかもめ」は廃止になるでしょうが、特急「みどり」「ハウステンボス」は残ると考えれば、一定の利便性は確保されるはずです。
既存の武雄温泉~諫早間は利用の多い時間帯だけ運行し、博多~武雄温泉間は特急「みどり」などに接続することが考えられます。佐賀県が建設費225億円を負担していることや、嬉野温泉にほかの鉄道がないこと、新大村に車両基地があることを考慮するなら、当面は廃止ではなく短縮編成での最低限の運行維持が望ましいです。
新幹線の存在意義は速達性にほかならず、現状の固定は赤字を固定することでありメリットがありません。どのような解決方法になるにせよ、事態の進展を願う次第です。
【了】
Writer: 安藤昌季(乗りものライター)
ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。
とても興味深いお考えだと思いますね。すっかり膠着状態になっている西九州新幹線ですから、そのまま時が過ぎていくのを待つというのは確かに得策ではないですね。現状でどれほどの赤字が出ているか、今後もその状態であることが損失になることもよくわかる記事でした。 その上でですが、この案は実現する案というよりも「佐賀県に突きつける脅し文句」のような役割を果たす気がしてなりません。佐賀県は「人が通り過ぎるだけのストロー現象」を嫌って「そんなものにお金は出さない」というスタンスだと思いますが、この案が実現してしまうと、そのストローさえ存在しないのですから引っかかるものもない状態になります。JR九州からしたら「ここまで非協力的なのだから、在来線についても今後はそれなりの対応しかしませんよ」と言われかねない状況になります。在来線特急で十分という立場で強硬姿勢だったのがどんどん肩身が狭くなってしまいそうですね。そして、すでに開通済みの諫早~武雄温泉間が新幹線の支線のようになってしまうのも何だか忍びないですね。「そうなってしまうのがいやなら早く佐賀市を通るルートの建設を認めよ」という形に見えます。可能なら詰将棋のような形でなく、双方が「いいね」と言い合える形で収まってほしいものですね。
これ実現したら長洲―多比良の有明フェリー(中学校の修学旅行でバスごと乗りました)は確実に廃止になりますね。逆に佐賀が寂れる可能性もあり得ます。