『ガンダム』はなぜ“空母”が少ない? MSばかり戦うなら「たくさん艦載すりゃいいじゃん」そうでもないワケ
ミノフスキー粒子の散布が間に合わないと…
しかし、ミノフスキー粒子は散布しなければ薄まるものですし、濃度が薄ければレーダーが使えてしまいます。ミノフスキー粒子濃度が薄ければ、戦艦は数百kmの距離から、光速の3分の1ともいわれる弾速のメガ粒子砲を正確に射撃してくるでしょう。この場合、目標は一方的に狙撃されます。
つまり、予期せぬ遭遇戦などで、ミノフスキー粒子散布が間に合っていない場合などには、主砲がなければ高性能・大出力のメガ粒子砲を撃ってくる宇宙艦艇に対抗できないわけです。ビーム攪乱幕などを使えば遠距離ビームの効果が弱まる世界ですが、数万m程度なら届くことは劇中描写でも明らかなため、MS戦闘を支援する場合にも主砲装備は必須なのでしょう。
また、センサーが弱く戦況を把握しにくい上に、パイロットや機体性能の差が出やすいMS戦闘は、数を増やせば有利でもないのでしょう。ア・バオア・クー戦で、ジオン軍のギレン総帥は「圧倒的じゃないか、我が軍は」と話していましたが、舞台は遠距離でのレーダーが機能しないうえ、敵味方が頻繁に白兵戦となる宇宙世紀です。要塞の高性能センサーで、遠距離を若干捉えられたとしても、戦況を「圧倒的優位」と判断するには、敵味方の動きのクセなどを把握する必要があり、指揮は非常に難しかったと思われます。
だからこそIQ240を誇り「戦闘を把握できる」ギレンが、妹のキシリアに暗殺された途端、ドロスが撃沈されるなどして戦線が崩壊したということも考えられます。
続編『機動戦士Zガンダム』では、大規模艦隊同士の決戦はほぼ起こらず、小兵力同士の戦闘が増えましたが、これはむやみに数を増やしても指揮がしづらいだけで無益であり、軍の予算が非合理に増えるとして、少数精鋭主義に切り替わったためとも考えられます。キシリアが精鋭だけを集めた「エース部隊キマイラ」を編成したのは、それはそれで合理的だったのかもしれません。
【了】
Writer: 安藤昌季(乗りものライター)
ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。
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