「寿命半分」なのに30年! 賛否分かれたJR東日本の“歴史的名車” その目論見を振り返る
209系から始まった通勤電車「スタンダード」の数々
この他にも209系が採用した「ドア上のLED式案内装置」「1人分の座面がへこんだバケット型のシートを採用したロングシート」「2人・3人・2人で分けるスタンションポール」などは、通勤電車のスタンダードとなりました。
JR東日本の挑戦は革新的車両の開発にとどまらず、自ら車両製造に乗り出します。民営化当初、同社の保有する電車は新幹線を含めて約1万1000両でしたが、うち約6500両が更新対象でした。また209系のコンセプト「寿命半分」を考慮すれば、車両更新のサイクルはこれまでより短くなるので、長期的に安定した需要が見込まれます。
1991年に車両製造参入が決定すると、拠点に選ばれたのが新潟県の新津工場でした。鉄道事業者の参入に警戒感を示す大手メーカーも少なくありませんでしたが、ステンレス車両の先駆者である東急車輛、プラントエンジニアリングに実績を持つ三井造船の協力を得て、構想は具体化していきます。
それまでの鉄道車両製造はハンドメイドの少量生産でしたが、新津工場では自動車生産を参考に、プレス工法の採用や溶接ロボットの導入、内装のユニット化や、機器や配線、配管の取り付け工程の効率化など大量生産を前提に設備を整えました。
こうして1993年から1998年にかけて京浜東北線に投入された209系は、おおむね13年が経過した2007年から2010年にかけてE233系に置き換えられました。一部の車両は2009年から2013年にかけて改造の上、外房線・内房線などに転用されますが、12年が経過した2021年から新型車両E131系への置き換えが進んでいます。さらに一部の車両は伊豆急行に譲渡され、第三の「人生」を歩んでいます。
続いて登場したE231系、E233系、E235系は209系の系譜に連なる車両であり、その多くが新津製作所(現・総合車両製作所新津事業所)で生産されています。経営環境や運用思想の変化から車両の寿命は延びつつあるものの、車両設計、車両製造、運用、メンテナンスまでJR東日本の車両運用の全てを一新した209系が、目論見通りの歴史的名車であることは間違いないでしょう。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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