これ新車!? やけにクラシカルな「鉄スクーター」がいま買えるワケ 元ホンダ技術者と「ベスパ」を巡る奇跡みたいな話

クラシカルな鉄ベスパ、現在まで生き延びた顛末

「バジャジの東ドイツへの輸入ラインがクローズすることが決まり、試しに付き合いがあった東ドイツの大使に『バジャジに興味があるから日本に輸入できないか声がけしてくれないか』とお願いしたんです。すると、あっさりバジャジから代理店契約を結んでもらえて、それで輸入販売することになったんです」(佐々木さん)

 当時のピアッジオ社によるオリジナルベスパのうち、スモールボディには旧来型のクラシカルなモデルがありましたが、ラージボディにはプラスチックパーツなどが多用され始め、いわゆる「鉄スクーター」としてのベスパの印象がやや薄まった時代でした。

 そんな時代に、佐々木さんが輸入したバジャジは、随所にアジアンな雰囲気を醸し出しつつも旧来型のクラシカルモデル。ベスパファンの間でおおいに注目を浴びました。

「当時のバジャジの細部にも実はプラスチックパーツが付いていたんです。でも、ボディ自体は従来のままだったので『昔のパーツ残っていないの?』とバジャジに聞いたら『ある』と(笑)。それで基本はそのままにしながら、私がクラシカルな部品で再度構成するよう指示をして、『バジャジ・ヴィーナスローマ』という名で日本で販売することにしたというわけです」(佐々木さん)

 当時バジャジの販売を行ったベスパに精通するショップも「ピアッジオ社のオリジナルよりも機構、塗装などの細部ともに優れている」と絶賛するほどでしたが、一定台数を販売した後、佐々木さんが輸入したバジャジの情報を聞かなくなりました。

 それから20年以上が経過した2010年代中盤に「実はデッドストックで数台の新車のバジャジが残っていた」として再販。現在は、横浜市都筑区のバイクショップ、モト・ビート シフトアップで数台の取り扱いが行われています。

Large bajaj 03

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台湾で存在した複数のメーカーのベスパ。このうちの一つが百吉発(バジャジ)だった(1992年、松田義人撮影)。

「バジャジ本社にも残っていないボディだし、私自身も『もう一度バジャジを再生産させよう』という考えはありません。だからもう残っている数台のみの販売ですけど、今見てもやっぱり素晴らしいスクーターですよ。エンジンがかかるとブルブルとボディ全体が震えて、楽器みたいな面白いエンジンを奏でる。最初に開発したイタリア人がすごいと思うけど、ライセンス生産にしてオリジナル以上のクオリティにしたインド人もすごい。バイクの楽しさが詰まったスクーターだと思います」(佐々木さん)

 奥が深いベスパの世界でもマニア度高めのアジア圏のライセンス生産モデルで、その代表的存在でもあるバジャジの旧式モデル。ベスパファンなら一度はエンジンをかけてまたがってみたい1台だと思います。

【了】

【マジで新車かよ…】これが真新しいままの「鉄ベスパ」です(写真)

Writer: 松田義人(ライター・編集者)

1971年、東京都生まれ。編集プロダクション・deco代表。バイク、クルマ、ガジェット、保護犬猫、グルメなど幅広いジャンルで複数のWEBメディアに寄稿中。また、台湾に関する著書、連載複数あり。好きな乗りものはスタイリッシュ系よりも、どこかちょっと足りないような、おもちゃのようなチープ感のあるもの。

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