ウィラーの挑戦 海外のノウハウが日本の地方交通を変える?

海外事例に近い北近畿タンゴ鉄道の「上下分離」

 丹鉄のスタートにあたっては、線路や車両などの施設保有と、列車の運行を切り離した「上下分離方式」を採用した点が注目されました。

 上下分離方式は海外の鉄道では盛んに導入されているシステムです。例えば、欧州連合(EU)では各国の国鉄を上下分離し、「下」にあたる施設保有は公が行い、「上」にあたる列車運行ビジネスへの参入は自由化する政策をとっています。この方針に従い、EU加盟各国の国鉄は基本的に上下分離化され、列車の運行には従来の鉄道会社以外にもさまざまな企業が参入するようになりました。

 また、国内の主要鉄道ネットワークを担う国鉄の上下分離だけでなく、自治体が持っている都市内の地下鉄や路面電車、バスなどの運行を民間企業が受託するという動きも活発です。こういった国々では、国内や国外の幅広い地域で鉄道やバスの運行を担う大手の交通企業がいくつも存在しています。

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北近畿タンゴ鉄道時代の天橋立駅。運行がウィラー・トレインズとなった現在も、施設は北近畿タンゴ鉄道が保有している(2009年6月、小佐野カゲトシ撮影)。

 日本でも最近はローカル線を中心に鉄道の上下分離化が行われるようになっていますが、運行はもともとの会社が続けたり、新たに地域で第三セクターを設立したりするのが基本的な形となっています。そのなかで今回の丹鉄の例は、民間からの公募により、地域外の異業種の会社が運行事業者に選ばれたという点で海外の事例に近いといえます。

 丹後エリアに密着し、まず地域の交通機関としての成功を第一に掲げるウィラー・トレインズですが、「高次元交通ネットワーク」のモデルが成功すれば、いずれは国内の他地域に展開する可能性もあり得るかもしれません。

 実は、すでにウィラーグループはほかの地域の公共交通にも関心を示しています。ウィラー・アライアンスは、2014年に神戸市が募集した、LRTやBRTなど「新たな交通手段」の導入の可能性を検討する事業者の1つに選ばれており、「LRTでむすぶ世界一住みやすいデザイン都市プラン」として、ICT技術の活用などで利便性の高い交通システムの導入を提案しています。

 さまざまな座席ラインナップやネットの活用で、高速バス業界大手へと急成長を遂げたウィラー。同社グループの新たな挑戦といえる丹鉄が「バス会社が運行する鉄道」というだけでなく、新しい地方公共交通の形を生み出せるか、今後の取り組みに注目が集まります。

【了】

Writer: 小佐野カゲトシ

1978年、東京と神奈川の境の小田急沿線生まれ。地方紙で約10年間記者として勤務したのち、2013年からフリーに。現在は国内・海外の鉄道について取材・執筆を行っている。海外の鉄道は国や地域を問わず、全般に関心を持っている。

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