「羽田新ルート」強行開設の理由は「発着便数UP」じゃない? 語られぬもう一つの“要因” とは

都心上空を通過する羽田空港の飛行経路「羽田新ルート」は、「滑走路の使用本数が減るのに、発着便数は増える」という説明がされています。筆者は、この運用が開始されたのには別の理由があると考えています。

目を向けるべきは「実は海」?

 羽田空港に隣接する東京湾には「東京西航路」という東京港へ大型船が出入りするための航路が設定されています。これが羽田空港への飛行経路と干渉する問題です。

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「羽田新ルート」で着陸する旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。

 この航路と、羽田空港のB滑走路とD滑走路への進入路が互いに干渉しあうことは、国土交通省が発行している進入経路図に2ページにわたって説明されています。同資料によると、B滑走路の場合56.3m、D滑走路の場合は53.7m以上の高さの船舶が東京西航路を航行すると、着陸機が飛行する進入路への影響が生じると図入りで解説されています。

 船舶の大型化は世界的な傾向です。昨今では、パナマ運河を航行できる最大の大きさとして従来規定されてきた、いわゆる「パナマックスサイズ」を超える大きな船が増えています。クルーズ船も例外ではありません。パナマックスが規定している船の高さは最大57.91mです。この大きさの船が東京湾西航路を航行するとD滑走路とB滑走路に進入する航空機は船の位置を確認しながら飛行する必要があるのです。十分な視程が確保できる天候であれば危険を回避することは可能と考えられますが、霧や雪などで視程が低いと進入を中止せざるを得ない場合も想定されます。

 東京港の入り口に立ちはだかるレインボーブリッジは桁下高が52mのため、パンナマックスサイズの船舶は航行することができません。そのため、パナマックスサイズのクルーズ船が入港できない晴海客船ターミナルは2022年2月20日をもって閉館しています。このような晴海客船ターミナルに代わって2020年に開業したのが、東京国際クルーズターミナルです。

 このターミナルが新設された理由は、レインボーブリッジの下を航行できない高さ52m以上のパナマックスサイズもしくはそれ以上の大きさのクルーズ船でも東京港で受け入れられるようにするためです。

今では総トン数15万トン、高さ60mを超えるクルーズ船の発着も珍しくありません。こうしたクルーズ船が東京港に入港するときは、必ず東京西航路を使用します。つまり、羽田空港の進入路と干渉することが避けられないのです。

 そこで、都心上空を経由した新しい飛行経路を開設することにより、B滑走路とD滑走路を着陸に使用する回数を減らすことができます。それにより東京西航路を航行する大型船の便数を増やすことが可能となります。

 2020年に開催が予定されていた東京オリンピックは新型コロナの蔓延で延期され、航空需要の急減にともない羽田空港を発着する旅客機の運航便数は大きく減少しました。ところが、新しい飛行経路は計画どおり2020年から使用が始まり、クルーズ船ターミナルも同年に開業しています。つまり、新飛行経路開設の理由は便数を増やすことではなく、むしろ大型船舶の航行を確保するためであったと考えるのが自然でしょう。

 このような筆者の推測が事実だとすれば、住民説明会やネット上で示された開設理由とは全く異なる要因が存在することになります。住民が国を相手に起こした騒音訴訟において国交省側はこれについては触れていないようですが、あえて伏せているとすれば、いつか説明を求められる局面が来るかもしれません。

【画像】これが「羽田空港の通常ルート&新ルート」の滑走路使用法です

Writer:

各国の航空行政と航空産業を調査するフリーのアナリスト。

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