「世界最速」に超こだわった旅客機、どう爆速達成? 全然売れずも“個性”はエグかった!

1960年代に「世界最速の旅客機」をコンセプトに打ち出したモデル「コンベア990」は、商業的にはとても成功作といえる航空機ではありませんでした。しかし、その性能をはじめ個性豊かな旅客機でもありました。

爆速達成のために装備された「珍アイテム」とは

 二つ目の新技術は「高速飛行時の抵抗減少を狙い主翼の後縁に「スピード・カプセル(アンチ・ショック・ボディー)」と呼ばれる紡錘型のポッドが取り付けられたことです。これが本機の最大の特徴でした。

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コンベア880。コンベア990のベースモデルとなった(画像:JAL)。

 スピード・カプセルは特定の速度帯において、機体前方から後方までの断面積の大きさをできるだけ小さくすることで、抗力を低下する「エリアルール」という理論に基づいて装備されたものです。

 しかし、こうして完成したコンベア990はまたしても目標の性能を満たすことができませんでした。原因はスピード・カプセルによる空気抵抗が、予想よりも大きかったことでした。

 そのため、スピード・カプセルとエンジンの取り付け部「パイロン」の形状変更などの改良を加えて、やっと当初の目標だった最大巡航速度マッハ0.89を達成することができました。

 こうした変更が加えられた改良型がコンベア990Aとして就航しました。ただ、やっとのことで同モデルは就航にこぎつけたものの、先行するボーイング707やダグラスDC-8などの競合他機よりも、やや速い程度で、圧倒するスピードが出せるという訳ではなく、特徴としては弱いものになってしまいました。

 そのため、アピールできるほど差別化できる点は機体が小さいという部分だけで、ボーイングが707の胴体を短縮した派生型「720」を投入すると急速に競争力を失ってしまい、結局わずか37機で生産を終えることになりました。

 旅客機としては「短命の迷機」ともいえたコンベア990でしたが、その性能に注目し、新たな役割を与えたがNASA(アメリカ航空宇宙局)でした。

 というのも同モデルは、もともと旅客機なので機内には多くの測定機材が収容できることに加え、降下時には音速付近で飛行が可能な性能が高速実験機として適していたのです。

 NASAで同モデルはのべ30年間にわたり、「空飛ぶ天文台」として運用されたほか、スペースシャトルの着陸システムの開発などにも使用されています。

 筆者は当時モフェットフィールド海軍航空基地(当時)でこの機体の飛行を観ることができましたが、真っ黒い煙を曳いており、飛び立つ姿はまるでB-52のようだったことを懐かしく思います。

【写真】これがコンベア珍アイテム「スピードカプセル」と圧巻の飛行シーンです

Writer:

航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事

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