「赤字の鉄道は民営化しろ!」←どっかで聞いた話だぞ? “政商”イーロン・マスク氏の提案が効果的でない理由 のめば“劇薬”

トランプ政権で要職を務めるイーロン・マスク氏が、アメリカの郵政や鉄道の民営化を訴えました。18年前と38年前の日本で起きた出来事と似通う部分がありますが、効果はあるのでしょうか。

民営化しても生き残れる?

 アムトラックとUSPSの民営化には連邦議会の承認が必要で、マスク氏の一存では決められません。それでも、2024年の大統領選でトランプ氏の選挙支援団体に2億5900万ドル(1ドル=150円で約388億円)を献金して勝利に貢献したマスク氏の発言だけに、一定の重みを持つのも確かです。

 もしもアムトラックを民営化した場合、生き残れる道はあるのでしょうか。主力路線である東海岸のボストン~首都ワシントン間の「北東回廊」は2024会計年度の営業損益が2億6780万ドル(同401億円)の黒字を計上しており、アメリカの鉄道関係者は「北東回廊だけに特化すれば民営化しても生き残れる」との見方を示します。

 この区間は途中にニューヨークやフィラデルフィア、ウィルミントン、ボルティモアといった都市が点在するため利用者が多く、筆者も勤務先のニューヨーク、ワシントン両支局での駐在中によく乗りました。高速列車「アセラ」は最高速度240km/hでボストンとワシントンを結んでいますが、線路をアムトラックの他の列車や、通勤電車、貨物列車と共用しているため最高速度で走れる区間はごく一部なのが玉に瑕(きず)です。

 一方、北東回廊以外の都市間列車や夜行列車は軒並み赤字を垂れ流しているものの、沿線地域にとって重要なインフラなのは間違いありません。だからこそ、連邦政府や州などの沿線自治体は補助金を出して支えています。

 アムトラックは「民営化してもアメリカが必要とする旅客鉄道システムの実現には、アムトラックと都市間鉄道に連邦政府が複数年にわたって多額の資金を拠出する必要があるという事実は変わらない」と反論します。

 公共性のある組織の民営化は問題を解決する“特効薬”ではなく、採算性という物差しだけで地域社会を切り捨てる“劇薬”になりかねない――「小泉劇場」のやり玉に挙げられて2007年に断行された日本の郵政民営化が、そんな問いを投げかけているのではないでしょうか。

【これぜんぶ民営化するの…?】米アムトラックの路線図&「わずかな黒字区間」(地図/写真)

Writer:

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。

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