135年の歴史に幕「渡し船銀座」から消える航路 車で乗ってわかった「替えが利かない」役割

広島県尾道市の「尾道水道」を交う渡船のひとつ「福本渡船」が、2025年3月31日で廃止されます。昭和な愛車で昭和に竣工された船に乗る体験をすべく現地へ向かいました。尾道の渡船の実情にも迫ります。

昭和なクルマで昭和な船に乗るという愉悦

 福本渡船の乗船場は尾道駅から約400m、歩いて10分かからない場所にあります。桟橋の手前には数台のクルマが待機できるスペースがあり、まずはここにクルマを停めます。

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浮桟橋を渡るサンタナ(画像:遠藤イヅル)

 運賃は船上で係員に渡す方式です。その運賃は徒歩なら大人60円・子ども30円、自転車10円・バイク20円、3m~4m未満の車両90円、4m~5m未満の車両100円(しかも運転者1名の旅客運賃込み!)というびっくりの安さです。支払いは現金のみですので、小銭を用意しましょう。

 なお福本渡船の運航時間は、始発が朝6時30分、最終は向島発尾道行きが20時、尾道発向島行きが20時10分。日曜日は運航しないので注意が必要です。

 訪問日はモヤがかかったあいにくの天候でしたが、それでも250mほどしかない対岸を出港した船の姿が確認できます。そして尾道駅側の桟橋に、この日運航されていたフェリー「第拾五小浦丸」が着岸。船首のゲートが降り、積まれていたクルマが浮き桟橋を渡って上陸してきました。

 入れ替わるように、係員の指示に従って人や自転車、クルマが乗船します。乗客は乗りなれた電車やバスのように、特に迷いなく利用しており、ビジターには非日常的でも、ここでは日常の“あたりまえ”のことだと実感しました。それだけでも、旅情がかき立てられます。

 第拾五小浦丸は、1984(昭和59年)に尾道の備後造船で竣工。全長約20m・全幅9.5m、総トン数92tの大きさは、3航路の中では抜群のビッグサイズです。車両搭載時の旅客定員は78名・最大搭載重量36tを誇り、小型車なら10台以上積めそうな広い甲板を持っています。

 1987(昭和62)年製の筆者のクルマと年代の親和性はバッチリで、その当時に訪れたらきっとこんな光景だったろうな、という雰囲気を作ることができました。昭和時代の船は淘汰が進み、現役ではあまり残っていないため、昭和のクルマで昭和のフェリーに乗船できるのは、今や貴重な体験かもしれません。

 と、興奮してサンタナと船の写真を撮っている間に、早くも向島の小歌島(おかじま)桟橋に到着です。乗船時間はわずか3分。

 向島で名物のお好み焼きを食べ、再びサンタナと一緒に船で戻ろうと小歌島桟橋の手前でクルマを停めて待っていると、すぐに第拾五小浦丸がやってきました。約10分間隔のフリークエンシー運航ながら、各便とも常にクルマが載っており、地元客がクルマを積む頻度の高さが伺えます。

 わずか3分の船旅ですが、船、とくに愛車と乗るフェリー体験は格別です。最後の下船時には、もう2度とこの船に乗れないという寂しさと、名残惜しさで胸がいっぱいになりました。

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