待望の新戦車も“ムダ花”に… アメリカ製兵器が陥る「機能モリモリ病」の深刻さ

アメリカ陸軍は、歩兵旅団戦闘チームへの火力支援を目的として開発されたM10「ブッカー」の調達中止を、突如発表しました。じつは、これまでにもアメリカは兵器開発プロジェクトで苦難の歴史を経験してきました。その背景は一体何なのでしょうか。

使い勝手が良い兵器を目指した結果…?

 航空自衛隊が運用しているF-35戦闘機も、当初はステルス性能こそ重視するものの、その他の点ではF-16戦闘機などと大差ない、簡素な代わりに安価な戦闘機として開発がスタートしました。

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アメリカ空軍が導入したOA-1K「スカイレイダー2」(画像:アメリカ空軍)。

 F-35を開発していた1990年代から2000年代にかけては、コンピュータや電子機器が急速に進化していた時期でした。このためF-35も当初計画の簡素で安価な戦闘機から、先進技術の導入によって機能を追加した結果、より複雑で高価な戦闘機になってしまいました。

 もっともF-35の場合は機能の追加が大きな拡張性につながったため、それがアメリカ軍の戦力を増強だけでなく、輸出面での成功も導きました。

 しかし、F-35と同時期に計画されていた、アメリカ陸軍のM1などの車両をすべて更新する「FCS」(Future Combat System)は、国家対国家の正規戦、テロ組織などを相手とする非正規戦のどちらにも対応できる兵器システムを目指した結果、機能の追加に伴う重量の増加や価格の高騰で、計画そのものが頓挫してしまいました。

 アメリカ特殊作戦軍が2025年に就役させた偵察機兼軽攻撃機OA-1K「スカイレイダー2」は、こうした経緯で大幅に就役が遅れた装備の一つです。OA-1Kは当初、アメリカ軍が非正規戦への対応を最大の使命としていた2010年代初頭にかけて就役する予定でしたが、機能の追加などで開発が遅れに遅れました。

 依然としてテロリスト集団や麻薬密売組織などとの非正規戦を展開するアメリカにとって、OA-1Kが無用の長物となってしまうことはないのですが、現在のアメリカ軍には正規戦を念頭に置いた装備体系の整備が求められており、やや「出し遅れの証文」になってしまった感は否めません。

 アメリカ軍は全世界で戦うことを想定しているため、自軍向けに開発する兵器には、いかなる環境下でも戦えるだけの高い能力を求めており、アメリカにはそれを実現できる他国とはケタ違いの高額な防衛予算と、高い能力を持つ防衛産業があります。

 軍が運用する兵器に、より高い能力を求めること自体は決して間違いではないのですが、より高みを目指した結果、重量の増加や価格の高騰、開発の遅延などを招き、使い物にならない兵器を生み出してしまう、言わば「アメリカ製兵器病」とでも言うべき弊害が顕在化しています。これを改善できなければ、アメリカの防衛が危うくなるだけでなく、アメリカ製兵器の国際市場競争力も損ねてしまうのではないかと筆者は思います。

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Writer:

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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