新幹線の“あり得ない運転”JRなぜOKした!? 鉄道視点でみる『新幹線大爆破』 新作が「はやぶさ」であるもっともな理由【ネタバレなし】

映画「新幹線大爆破」のオリジナル版公開から50周年を迎えました。2025年にはこの「リブート版」も公開されましたが、新旧両作品ともに、鉄道の視点からだとどのような発見があるのでしょうか。

オリジナル版公開から50周年

 日本が誇る高速鉄道の新幹線に、一定速度を下回ると爆発する爆弾を仕掛けられる衝撃的な舞台設定の映画「新幹線大爆破」(東映)の公開から、2025年7月5日で50周年を迎えました。

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東北新幹線「はやぶさ」のE5系(画像:写真AC)

「おや、最近公開された作品では?」と思ったかもしれませんが、2025年4月に動画配信サイトNetflixで限定配信されたのは、オリジナル版を「リブート」した作品です。この「新幹線大爆破」がいかに衝撃的な作品だったのか、本編のネタバレは控えつつ、鉄道的な観点から見ていきましょう。

 停止できない列車で事件が起こるというアイデアは、1966(昭和41)年に黒澤明が企画・脚本化するもお蔵入りになった「暴走機関車」(1985年にアメリカで映画化)があり、オリジナル版の佐藤純弥監督も関わっていました。

 また同年にはアメリカで、高度1万フィートを下回ると爆発する爆弾が飛行機に仕掛けられる「夜空の大空港」が公開されており、「新幹線大爆破」のアイデアは必ずしも独自のものではありません。しかし「新幹線大爆破」が今も色あせないのは、題材に新幹線を選んだことです。

 映画公開された1975(昭和50)年は、国鉄にとって大きな転機でした。3月に山陽新幹線が全通し、東京~博多間1000km以上の長距離運転が始まりました。一方、同年11月に平均32%の運賃値上げが実施されたように、国鉄の経営悪化は危機的な状況に突入していました。

 高度成長の象徴であり鉄道を復権させた新幹線ですが、1970年代に入ると新幹線神話に陰りが見えてきます。高速運転の影響は想定以上で、開業10年を迎えるころには車両、線路、架線などトラブルが頻発します。

 さらに1973(昭和48)年2月には、鳥飼車両基地(大阪府摂津市)を出発した回送列車が停止信号を守らず本線に突入し、脱線する重大事故が発生しました。新幹線の安全を担保しているのは、自動的に列車を減速、停止させる自動列車制御装置(ATC)です。そのATCがこのとき機能しなかったという事実は、新幹線の「安全神話」が崩れたことを意味しました。

 また、列車本数の増加で騒音や振動が問題化し、1974(昭和49)年3月に名古屋市の沿線住民575人が国鉄を訴えました。「新幹線大爆破」と同じ1975(昭和50)年に東宝が公開した映画「動脈列島」は、新幹線に騒音公害対策をしなければ列車を脱線させると国鉄を脅迫する犯人との対決を描いています。

 そのような曲がり角の新幹線を題材に、暴走機関車のアイデアを組み合わせたのがオリジナル版でした。これは劇中の「今、新幹線の科学技術と管理方法が本物かどうか試されているんだ」というセリフに象徴的です。さらにオイルショックを経た高度成長の終焉、下火となった左翼過激派、沖縄返還などもシナリオにからみ、題名以上に社会派映画という印象です。

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