車窓が特殊すぎる!? 私鉄の「殺風景を楽しむ電車」とは? 終点もちょっとヘン!
全長が10kmに満たない鉄道路線で、「夜に電車で行き来する」という企画が10年超も続いてきました。ロングランの人気を探ろうと乗り込むと、首をかしげる光景の駅に行き着きました。
終点なのに「まるで中間駅」のナルホド~な理由
本吉原の次は岳南原田です。ここから隣の比奈までは見所の一つで、両側に立つ工場から延びたパイプライン(配管)が、ところどころで線路を覆っています。配管は辺りの照明に照らされ、いぶし銀の光沢を放っています。

比奈の次の岳南富士岡の駅前にある「がくてつ機関車ひろば」には貨物列車をけん引していた電気機関車を展示しており、1928年に川崎造船所(現・川崎車両)が製造した凸型の「ED501」や、日本車両製造が65年に造った「ED402」などが並びます。
駅の近くには漫画誌『週刊少年ジャンプ』(集英社)に使われている更紙(ざらがみ)などを生産する興亜工業の製紙工場もあり、よく目にする白と赤ではない「白と青の煙突」から白煙が上っていました。
電車は「チン、チン、チン」と鐘を打つ警報音が鳴り響く「電鈴式踏切」を通り、住宅街を抜けると終点の岳南江尾に着きました。
反対側に9000形が停車した1面2線の島式ホームに降り立つと、違和感を持ちました。終点なのに線路が先へ延びており、ホームと改札口の間にある構内踏切を渡って駅舎へ向かう構造は「中間駅」のようだからです。
藤咲さんはその理由を「昔は沼津方面へ延ばす計画があり、岳南江尾は中間駅になるはずだったからです」と教えてくれました。延伸用の土地も岳南江尾の先まで買い取ったものの資金不足から中止され、背景として「都市の規模で上回る沼津へ延伸すると人口が流出し、衰退してしまうという懸念が吉原側にあって十分な資金が集まらなかった」とされます。
購入しながらも線路が敷かれなかった土地の多くは、今も空き地のまま残されています。線路用の細い土地のため買い手が付きにくかった事情もあるそうです。
「夜景電車」に乗って暗黒の空間になじんでいた筆者は、電車が岳南江尾の先の「未成線」の線路を通り、ヘッドライトが暗闇を照らして進んでいくのではないかという不思議な錯覚を抱きました。
Writer: 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。
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