「ソ連の裏庭に姿見せてやれ!」米国による “名誉挽回の大作戦” その背景とは?「世界初の原子力潜水艦」誕生秘話
1950年代、アメリカは世界初の原子力潜水艦として「ノーチラス」を就役させます。こうして新兵器を手に入れたアメリカは、宇宙開発競争で優位に立っていたソ連を見返そうと、乾坤一擲の一大作戦を実施しました。
アメリカが仕掛けた 原潜でないと達成不可能な作戦とは?
それから約3年後の1958年夏、当時、宇宙開発競争でソ連(現ロシア)の「スプートニク」の後塵を拝していたアメリカは、名誉挽回をかけて、この「ノーチラス」を用いた科学実験航海を計画します。それは、潜水艦で北極点を通過するというもので、「サンシャイン作戦」と命名されました。
当時、ソ連は原潜を保有していなかったので、北極海を潜航したまま通り抜けることはできません。そのため、これはソ連にとって「裏庭」的存在の北極海に、「仮想敵」のアメリカがわが物顔でのさばるという由々しき事態といえます。
実はこの作戦は、リッコーヴァーが「ノーチラス」の2代目艦長として指名したウィリアム・ロバート・アンダーソン中佐の提案によるもので、それまで誰も、原潜の潜航能力を用いて北極海を航行し、北極点を通過するということに考えが及んでいませんでした。
陸地の南極大陸上にある南極点とは異なり、北極に陸地はないので、北極点は海底にあることになります。ゆえに「サンシャイン作戦」が発想できたのでした。
かくしてアンダーソン艦長が指揮する「ノーチラス」は1958年8月3日、潜航したままで北極点上を通過。この事実を伝える通信文も有名になりました。
「Nautilus 90 North(ノーチラス北緯90度)」
宇宙競争ではソ連に遅れをとっていたアメリカですが、海洋開発競争では逆にソ連をリードした瞬間でした。そしてこれを機に、極寒の北極海をめぐる米ソの「海中の冷たい戦い」がヒートアップしていくことになるのです。
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。





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