JR各社「インバウンド効果が過去最高」JR東日本だけが違う…なぜ? 「予言」の影響は本当か?
好調が続くインバウンドの影響は、JR各社の運輸収入の追い風となっています。しかし、JR他社と比べとJR東日本は伸び悩みが。どのような背景があるのでしょうか。
「地域性・国民性」により訪問先は様々
前述のようにインバウンド人気は東京~大阪間に集中しています。JNTOの統計によれば、首都圏一都三県と近畿圏二府四県以外に年間訪問者数が100万人を超えるのは、北海道、山梨、長野、石川、静岡、岐阜、愛知、広島、福岡、大分、熊本、沖縄の12道県のみ。前述のゴールデンルートを中心に西日本に偏っていることが分かります。
また、全体の3分の2を占める東アジア(韓国・中国・香港・台湾)に絞って都道府県別旅行者数の割合を見ると、中部・関西は中国、九州は韓国が多いなど、かなりの地域差があることが分かります。
これに対して台湾人旅行者は様々な場所を訪れます。特に東北の訪問率が圧倒的に高く、岩手と山形では3分の2、宮城・秋田・福島では約半数を占めています。また北陸・信越や四国でも高い傾向を示しており、JR東日本のインバウンド収入に大きな貢献をしているのです。
これには各国・地域ごとの旅行スタイルが反映されています。団体旅行が多い中国は欧米の旅行者と同様に定番のゴールデンコースが人気で、韓国は国内旅行感覚で距離的に近い九州を訪れます。一方、台湾人旅行者はリピーターが多いため、定番観光地だけでなく様々な地域を訪問しているのです。
ただ、東北の外国人旅行者は総数が小さく、都道府県別ランキングでは宮城が23位、青森が29位ですが、それ以外は33~42位と低位にあります。台湾以外の旅行需要を開拓しなければ観光客は増えないでしょう。
現在、高市首相の「存立危機事態」発言に反発する中国政府が「渡航自粛」を呼び掛けており、観光業にも影響が出始めています。2019年には日韓情勢の悪化で韓国人旅行者が前年比25.9%減少したこともありました。インバウンド需要は様々な外的要因に左右されるため、特定国への依存はリスクがあります。
「外国人旅行者」はざっくりとしたイメージで語られがちですが、実際には地域性、国民性が色濃く反映されています。誰に何を訴求するか、JR東日本に今、必要なのはターゲットを絞った地道な取り組みといえるでしょう。
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx





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