戦車発明国の「新型戦車砲」が有人砲塔で砲撃に成功!…でも素直に喜べない? ウラにある「英国面」の黄昏
イギリスが開発を進めている新戦車「チャレンジャー3」が、有人での主砲実射試験に成功しました。戦車発明国にとって30年以上ぶりとなる快挙ですが、その背景には、かつての「戦車大国」が抱える複雑な事情と「黄昏」が見え隠れします。
中身はドイツ製!? “英国面”がチラつく事情
チャレンジャー3は新規設計された戦車ではありません。既存のチャレンジャー2をベースにした近代化改修プログラムです。最大の変更点は、主砲を従来のライフル砲から120mm滑腔砲に換装したことです。これにより、NATO標準戦車砲弾薬との互換性を確保し、威力と運用上の柔軟性が大きく向上します。
さらに、最新の光学・電子照準システム、モジュラー装甲、アクティブ防護システム(APS)の採用も予定されており、デジタル化による戦闘力向上が図られています。
もっとも、ロシア・ウクライナ戦争を受けてNATO諸国が戦車戦力を急速に増強している現状と比べると、チャレンジャー3の歩みは決して速いものではありません。
計画は2000年代初頭に始まり、初期運用能力(IOC)は2027年を目標としていますが、量産スケジュールは依然として不透明です。改修されるのも既存の148両のみで、数的に十分かどうかも議論が分かれます。
イギリス陸軍の機甲戦力近代化計画で、チャレンジャー3は重旅団戦闘チームを構成する中核とされています。
そしてもう一つの構成要素が、新型装甲車「エイジャックス」です。しかしこちらは、騒音や振動による健康被害の懸念から試験停止に追い込まれ、遅延とコスト増、設計瑕疵問題が深刻化しています。
エイジャックスプログラムは、イギリスの防衛装備品調達が抱える「どうしてこうなった」という「英国面」を象徴しています。過度なこだわりと複雑な利害関係が絡み合い、時間と資金が浪費されていく典型例です。機甲戦力近代化計画の進捗は予断を許しません。「救い」といえるのは、チャレンジャー3がエイジャックスのように最新技術を欲張りすぎず、実績ある既存車体の改修という比較的安全な道を選んだ点でしょう。
欧州では、ドイツの「レオパルト2」が事実上の標準戦車として存在感を高めています。それでもイギリスが国産のチャレンジャー3にこだわる理由は、単なる伝統や矜持だけではありません。NATOとの相互運用性を確保しながら独自の抑止力を維持すること、国内防衛産業と技術基盤や雇用を守ること――こうした思惑が重なっています。
イギリスは2004年に戦車製造ラインを閉鎖しており、チャレンジャー3は最先端の戦車ではありません。それでもなお新しい戦車砲が一発の砲声を響かせました。「イギリス戦車の時代はまだ終わっていない」ことを宣言しているようにも見えます。
しかしその「誇らしい瞬間」を実現した戦車砲は、ドイツのラインメタル製でした。そこにイギリス戦車の黄昏が凝縮されているようにも見えます。
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。





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