ロシア軍じゃない!?「史上最大の巨人機」破壊の真実 ウクライナ自身が壊さざるを得なかった悲しき理由
世界最大の輸送機として多くの人々に愛されたアントノフAn-225「ムリヤ」。2022年のロシア侵攻時に破壊されたこの機体ですが、実は直接的な原因はロシア軍ではなく、ウクライナ軍自身の砲撃だったという見方が有力です。その背後にある悲劇的な真実に迫ります。
国家存亡の際は激レア機の損失も致し方ない?
当時、世界中のメディアは「ロシア軍がAn-225を破壊した」と一斉に報じました。実際、戦闘を開始したのはロシア軍であり、空港を占拠したのもロシア軍だったため、この見方は自然なものといえるでしょう。焼け落ちた機首部分や崩れた格納庫の映像は世界へ配信され、多くの人々が「世界最大の巨人機」の喪失を惜しんだのです。
ところが、その後の調査によって複雑な実態が明らかになっています。ウクライナ軍はホストメリ空港を奪還するため、空港に対して大規模な砲撃を加えました。その際、格納庫周辺も攻撃対象となり、「ムリヤ」は砲撃によって致命的な損傷を受けた可能性が高いとされています。
つまり、機体を破壊した直接の原因はロシア軍の意図的な破壊ではなく(少なくとも3日間は無傷であった)、空港奪還を目的としたウクライナ軍自身の火力支援だったという見方が現在では有力です。
もちろん、それは決してウクライナ軍の「誤射」や「失策」を意味するものではありません。開戦直後のウクライナは国家存亡の危機に直面していました。首都キーウ陥落の危険が現実となる中、ホストメリ空港をロシア軍に利用させれば、大量の増援部隊が送り込まれ、戦局は決定的になっていた可能性があります。
こうした状況を鑑みると、「ムリヤ」が航空史上極めて貴重な機体だったとしても、その保存を優先できる状況では到底なかったといえるでしょう。
ただ、直接的な損傷はウクライナ軍の砲撃によるものだったとしても、そのような決断を強いた根本原因は、言うまでもなくロシアによる侵攻そのものにあります。侵略がなければホストメリ空港は戦場にならず、ムリヤが砲火にさらされることもありませんでした。
「ムリヤ」は単なる輸送機ではなく、冷戦、宇宙開発、そして世界物流の歴史を体現した唯一無二の存在でした。その喪失は、1機の航空機が失われたという事実以上に、人類が共有していた航空遺産を、製造国であるウクライナが自らの手で破壊せざるを得なかったという悲劇を意味しています。この事実は、ある意味で戦争の悲惨さを伝える一面であったとも言えるのかもしれません。
Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)
1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。





コメント