夜行高速バスの真価はダイヤにあり ライバルより「遅く出発・早く到着」実現する工夫(写真14枚)

短距離夜行バスは、あえて長時間運行することも

 運行距離が200~300km台の短距離路線でも夜行便が設定されているケースがあります。このような夜行バスのダイヤは、どうなっているのでしょうか。

 昼行便、夜行便双方が運行されている福岡~鹿児島線「桜島号」(西鉄高速バス、JR九州バスなど)の場合、福岡・鹿児島両地を23時台に発車し、翌朝6時台に目的地へ到着する夜行便のダイヤを設定。通常の速度で走れば4時間半程度で到着しますが、夜行便はあえて、約6時間半かけて運行しています。

 理由は「乗客の睡眠時間の確保」と「乗務員の仮眠休憩時間の確保」です。この路線は完全ワンマンで運行していますが、夜行バスをワンマンで運行する場合、国土交通省が定めた「高速乗合バスの交替運転者の配置基準」により、運行距離(原則400km)や連続運転時間(おおむね2時間まで)、休息時間(おおむね2時間ごとに連続15分以上)などが細かく決められています。これら基準を遵守する目的と、乗客の睡眠時間を確保するために、途中のサービスエリアで乗務員の仮眠休憩時間を設けているのです。

 同様の事例は、名古屋~大阪線「青春大阪ドリーム名古屋号」(ジェイアール東海バス、西日本ジェイアールバス)や大阪~高知線「よさこい号」(阪急バス、とさでん交通)、「広福ライナー」夜行便(中国バス、JR九州バス)、「福岡~延岡・宮崎夜行線」(西鉄高速バス、宮崎交通)などでも。これら完全ワンマン運行の夜行バスには、床下や車内後部に乗務員専用の仮眠室が設けられており、仮眠休憩時はこの仮眠室で休憩をとっています。

 なかには、運行距離が400km以上の路線でも完全ワンマン運行をする夜行バスもありますが、これらの多くは途中の交替地点で乗務員が交代します。代表的なものとしてはJRバスの「ドリーム号」が有名ですが、「ドリームさいたま号」(西武観光バス、西日本ジェイアールバス)や「カルスト号」(近鉄バス、防長交通)のように、共同運行会社の協力を得て完全ワンマン運行を行っている路線もあります。

 一方、「高速乗合バスの交替運転者の配置基準」では、「当該運行の運行直前に11時間以上の休息期間を確保している場合」などの条件を満せば500kmまでの夜間ワンマン運行が可能と定められており、これらを満たすことで交代地点での途中交替を行わない完全ワンマン運行を行っている路線もあります。岡山~福岡線「ペガサス号」(西日本鉄道、両備ホールディングス、下津井電鉄)や、大阪・京都~東静岡・河口湖線「フジヤマライナー」(近鉄バス、富士急山梨バス)などがこれに該当します。

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完全ワンマン運行の阪急バス「よさこい号」(須田浩司撮影)。
完全ワンマン運行の宮崎交通「福岡~延岡・宮崎夜行線」(須田浩司撮影)。
途中で乗務員交代を行う近鉄バス「カルスト号」(須田浩司撮影)。

 ちなみに、夜行バスを含め「高速バス」の乗務員が2名体制になる基準は、「高速乗合バスの交替運転者の配置基準」に照らし合わせてみると、おおむね350km前後といわれています。東京発着の夜行バスを例に挙げると、仙台、新潟、名古屋付近への路線であれば交替は不要。盛岡以北や北陸、京阪神以西に向かう路線では交替(もしくは2名乗務による運転)が必要ということになります。

 夜行ならではのメリットを引き出せるよう設定されている夜行バスのダイヤですが、先述の通り、各種法令や告示類もきちんと考慮されています。いちばん大事なことは、バス会社側が常に乗務員の運転時間や拘束時間について責任を持ってしっかり管理し、安全最優先で運行すること。ダイヤだけではなく、バスの運行体制にも注目してみることで、夜行バスという乗りものに対する「理解」がより深まるのではないのでしょうか。

※一部修正しました(5月6日21時45分)。

【了】

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Writer: 須田浩司

自称「高速バスアドバイザー」。運行管理者資格所有。高速バス乗車1100回以上。 紙原稿・ネット原稿・同人誌・ブログなどを通じてバス・鉄道を中心とした 「乗りもの旅」の素晴らしさを伝える活動を行う。北海道在住。

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コメント

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7件のコメント

  1. 昔はEF64が客車を牽引する臨時アルプスにお馴染み165のアルプス、これらも夜行に入るやケツにスカ色のクモハ貨物を付けて昼の倍近い所要時間で今の夜行バスのような役を果たしてましたが消えてしまいました。
    また普通115系の夜行なども日野春駅で54分の停車時間を設けるなど鉄道も夜行盛んな時期がありました。
    しかしながら夜行バスも最近は国産2階建てバスの廃止や通常バスにても価格上昇前の排ガス規制の駆け込み購入と言った事情からの経費の問題か?運賃が特別シートを除いた通常期でも新幹線の運賃を追い掛けてるところが気になるところですが、寝れるか否かはさておいても暫くは途絶えない市場だとは思いますね

    • 半自動の扉から入るすきま風が寒かったですね・・・。

  2. 関西から福岡ならフェリーもあるし、早朝に着く便なら事前に申請すれば着岸後に一時間くらい船内に残って風呂、食事とか、送迎の駅は限定されるにしても休めると言う意味ではフェリーもいいよ

  3. 工夫をしても、運転士がいないよ・・・。
    需要はあるが、このままでは夜行列車の二の舞だな。

    • まったく仰る通り!いよいよ二種免の収得年齢や仕切りを下げてくるようです。
      ツアーバス事故で取りざたされた社内での12m級のバスの運転経験不足が叩かれた教訓とか無いのでしょうかね?
      必ずしも免許歴=運転歴ではないでしょうし
      元々は免許れきで受験資格が発生するシステムこそ元凶なのではないでしょうか?
      やはりその辺りを踏まえないと今の物流業界のように車は揃えたが担い手が居ないなんて話になりかねないですよね

  4. 一番欲しいのはちょっとした時間よりもフルフラットシートなんだけど、それができないのがね。
    新幹線特急券と同額程度なら夜行列車もまだ需要はあると思うんだけど
    寝台券はいくらなんでも高すぎた
    だからJR西の117系改造にはブレークスルーの契機として期待してる

    • 衝突安全基準の関係でフルフラットシートは不可のはずです。