戦車砲弾「化学」で殴るか「運動」で殴るか 装甲を貫くためのふたつのアプローチとは

陸上自衛隊の10式戦車と90式戦車は同じ主砲弾を使用していますが、この砲弾にも実はふたつの種類があり、総火演でも両方が射撃されていました。どう見分けるのでしょうか、その特徴などを解説します。

「化学エネルギー」と「運動エネルギー」

2種類の戦車主砲弾、見分けるにはココに注目(1分48秒)。

 実弾の射撃が観られる「総火演」こと「富士総合火力演習」ですが、たとえば同じ戦車の射撃でも、砲弾に種類があることには、会場アナウンスや号令を注意して聞いていないとなかなか気づかないかもしれません。もちろん、着弾の様子も異なります。

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2018年の総火演にて、雨のなか射撃する10式戦車(関 賢太郎撮影)。

 そもそも戦車の、攻撃用の主砲弾は、大きくふたつに分けられます。弾頭が爆発することで標的にダメージを与える「化学エネルギー弾」と、砲弾自身の質量や速度で破壊をもたらす「運動エネルギー弾」です。陸上自衛隊が保有する10式戦車と90式戦車の120㎜滑腔砲の場合、次のようなものが使用されています。

 まず前者の化学エネルギー弾ですが、着弾時に爆発し、砲弾から液体金属が超高速で噴出、その「メタルジェット」による超高圧で装甲を貫きます。一般に「HEAT弾(成形炸薬弾または対戦車りゅう弾)」と呼ばれるものです。破壊のメカニズムを端的にもう少々説明するならば、「モンロー/ノイマン効果で噴出したメタルジェットの超高圧により、対象の装甲はユゴニオ弾性限界を超えて液体様にふるまい、そこをメタルジェットが貫いていく」となります。あくまで圧力による貫通です。

 次に運動エネルギー弾「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)」ですが、すなわち砲弾自身の質量と速度により対象の装甲を貫くというものであるため、HEAT弾に比べ弾速が明らかに上です。また、ただの金属の矢であるため、なかに炸薬を持たず、命中しても爆発はしません。総火演で見られたような、的に着弾して上がる煙は土や砂です。

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朝霞駐屯地の陸自広報センター「りっくんランド」に展示されている「HEAT(対戦車りゅう弾)」(写真上)と「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)」の模型(画像:HARUKAZE)。
「HEAT(対戦車りゅう弾)」(写真下)の内部構造。ろうと状の金属板(ライナー)がメタルジェットを発生させる(画像:HARUKAZE)。
「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)」の内部構造。性能諸元の初速を時速換算すると約5400km/hになる(画像:HARUKAZE)。

「10式戦車や90式戦車用の主砲弾は2種類。APFSDS(徹甲弾)はもっぱら対戦車用で実弾と演習弾があります。HEAT(対戦車りゅう弾)はさく裂するため対戦車だけではなく非装甲車両や対人など様々な目標に対して有効です」(航空軍事評論家 関 賢太郎さん)

 なお総火演の本番において、戦車が射撃する際にかかる号令には、もちろん決まりがあります。たとえば「5の台左(場所)、戦車(目標)、徹甲(弾種)、2班集中(誰がどのように)、撃て」「3の台、戦車、対りゅう、班集中正面射、撃て」といった要領です。聞き取りづらい場合もあるかもしれませんが、着弾する場所と砲弾の種類がわかるようになると、総火演の観方がまたひとつ深まることでしょう。

【了】

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