飯田線の「秘境駅」を訪ねて 「不安」と「拍子抜け」の狭間を旅する

愛知、静岡、長野3県の山間部を貫くJR東海のローカル線・飯田線。そこには周囲に人の気配がなく、利用者もほとんどいない「秘境駅」が多数あります。秘境駅巡りの臨時列車には乗らず、毎日運転されている普通列車に乗って秘境駅をいくつか訪ねてみました。

カメラを向ける「降りない客」

 中井侍は茶の生産地として知られている。といっても、地形的な理由から手摘みが前提で収穫量は少なく、市場に出回る量も少ないそうだ。どうやらそれを逆手にとり、新茶のシーズンには町おこしに活用している模様。「おこせる町」があることを考えると、中井侍駅は秘境駅というよりは「秘境っぽい駅」といった方が適切かもしれない。

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中井侍駅のひとつ隣にある静岡県内の小和田駅(2018年8月20日、蜂谷あす美撮影)。

 約2時間の滞在を終え、13時36分発の豊橋行きに乗り込む。飯田線を端から端まで走破する列車なので乗客は多い。中井侍が「秘境駅」であることをご存知らしく、結構な数のお客さんが駅に向かってシャッターを切っていた。降りないと実態は分からないんだけどな。ちょっとした優越感に浸る。 

 続いての目的地である小和田駅までの乗車時間はわずか6分。このあいだにお手洗いを済ませておかないと、尊厳の危機に陥る。なかなかせわしない。こうして13時42分、小和田駅に到着。政令指定都市である静岡県浜松市に位置していながら、秘境駅として抜群の知名度を誇る。

 駅舎に向かうと、頭上には「慶祝 花嫁号 小和田発ラブストーリー」と書かれたヘッドマークが掲げられていた。小和田駅は「こわだ」と読むが、これを「おわだ」と読めば、事情は察していただけるだろう。

 駅舎は飯田線の前身会社のひとつである三信鉄道が1936(昭和11)年に開業したころより使われているもの。かつて有人駅だったことを伺わせる木枠の窓口はカーテンで閉ざされており、公衆電話のシールはあっても電話の本体はない。

 駅舎から道なりに下っていく。左手にちょっとした休憩スペースがりあり、「小和田発ラブストーリー 愛 お二人の幸せを呼ぶ椅子」と書かれた朽ちたベンチがあった。さらに進むと製茶工場と民家の廃屋があらわれる。ほかに家屋は見当たらない。

 この小和田にもかつては集落があった。しかし、1956(昭和31)年に完成した佐久間ダムによって水没してしまったようだ。廃屋をのぞいてみると、時計の針をそこにとどめるようにして、壁に麦わら帽子がかけられている。また、敷地内にはオート三輪のミゼットが打ち捨ててあった。ここに人の気配があったころ、業務用として使われていたのかもしれない。

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コメント

3件のコメント

  1. トリビアリズムに陥らず、簡潔で情理があり情趣もあって、とてもよい記事。あと、写真をみて、東海の駅名標はフォント、文字バランスともに非常に行き届いているなと改めて感心。そうか茶摘み体験か。いつか飯田線を行ったり来たりしてみたいです。

  2. トイレの心配もあり、なかなか秘境駅巡りができませんが、原風景ならではの自然はやっぱりいいなと思いました。いつか時間を気にせずのんびり行ってみたくなる記事ですね。

  3. ここまでメジャーになってマニアがうようよされて賑やかだったら「秘境感」は味わえなくなってしまうだろう。全国には、アクセスは容易だが乗降客が極端に少なく、マニアも来ない駅はまだたくさんある。そういった駅で「秘境感」、時が止まったような時間を過ごしたい。

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