飯田線の「秘境駅」を訪ねて 「不安」と「拍子抜け」の狭間を旅する

普通列車で「行ったり来たり」

 この路線のいいところは、首都圏から東海道新幹線でお手軽に行けること、そして何よりも秘境駅が豊富にあることだ。具体的には、大嵐~天竜峡間の約36kmに秘境駅と呼ばれる駅が多数ある。

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飯田線の普通列車。険しい山間部を天竜川に沿って走る(2018年8月20日、蜂谷あす美撮影)。

 出かけると決めたら、次に考えなくてはいけないのは行程。飯田線については、同線を運営するJR東海も公に秘境路線と認めているようで、豊橋~飯田間で臨時急行「飯田線秘境駅号」が運行されている。この急行は秘境駅での長時間停車が設けられているため、こちらが何の用意をせずとも効率よく駅を回ることができる。

 これに乗るのもひとつの手ではあるが、これでは先ほどの小幌駅と同様に「お仲間ぞろぞろコース」となるので、秘境駅感は期待できない。加えて、各駅で停車時間が設けられているといっても、たかだか30分ほどのこと。周囲を見回しているうちに発車時間が迫る。どうせ行くなら、1、2時間くらいは時間を確保したい。

 そんなわけでオリジナルの行程にすべく、時刻表を繰り始めた。ただし「乗って、次の列車で次の駅に移動して、徐々に北上する」というのではいけない。列車の本数が少ないからだ。そこで上りと下りの列車を組み合わせ、秘境駅が集中している区間を行ったり来たりすることで滞在時間を調整。2日間で5駅回ることとした。

 2018年8月20日(月)8時11分、豊橋発天竜峡行きの列車は定刻通り発車。2両編成の列車は通学客で混雑しており、立ち客もいる。60人ほどだろうか。ひと口に飯田線といっても、すべての区間が秘境なわけではない。とくに豊橋~豊川間は日中15分間隔。その先の本長篠駅までも、おおむね1時間に1本は列車が走っている。

 豊橋発車からおよそ2時間が経過し、中部天竜駅に至る。ここで列車交換のために20分停車。周囲を見渡すと乗客は20人ほどにまで減っており、見るからに行楽のお客さんが多い。

 ホームに降りて、伸びをしていたところで、おばちゃんふたり組に話しかけられた。落ち着きなく写真を撮ったり、車内をうろうろと徘徊(はいかい)したりしている私の姿が目についたのだろう。

「秘境駅に行こうと思っているんです」
「だってあんた、降りたら次の列車は2時間以上こないでしょ。どうするの」

 実のところ、私もどうしたらいいのか分からないでいた。最初から種明かしをしていても面白くないだろうと思い、「どの辺が秘境駅に該当するか」は調べたものの、それ以上の知識はろくすっぽ頭に入れてこなかった。

 列車は順調に歩みを進め、いよいよ最初の下車が近づいてきた。用心深く、座席とトイレを何度か往復しておく。秘境駅にはお手洗いがない。人がいないし、最悪は……という考えではいたけれど。

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コメント

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3件のコメント

  1. トリビアリズムに陥らず、簡潔で情理があり情趣もあって、とてもよい記事。あと、写真をみて、東海の駅名標はフォント、文字バランスともに非常に行き届いているなと改めて感心。そうか茶摘み体験か。いつか飯田線を行ったり来たりしてみたいです。

  2. トイレの心配もあり、なかなか秘境駅巡りができませんが、原風景ならではの自然はやっぱりいいなと思いました。いつか時間を気にせずのんびり行ってみたくなる記事ですね。

  3. ここまでメジャーになってマニアがうようよされて賑やかだったら「秘境感」は味わえなくなってしまうだろう。全国には、アクセスは容易だが乗降客が極端に少なく、マニアも来ない駅はまだたくさんある。そういった駅で「秘境感」、時が止まったような時間を過ごしたい。