飯田線の「秘境駅」を訪ねて 「不安」と「拍子抜け」の狭間を旅する

愛知、静岡、長野3県の山間部を貫くJR東海のローカル線・飯田線。そこには周囲に人の気配がなく、利用者もほとんどいない「秘境駅」が多数あります。秘境駅巡りの臨時列車には乗らず、毎日運転されている普通列車に乗って秘境駅をいくつか訪ねてみました。

「5分」を選んで「15分以上」に

 駅の方に少し戻る。「小和田池之神社5分」「塩沢集落1時間」の看板が立っていた。さらに足元には「高瀬橋25分」の板も。高瀬橋とはつり橋のことで、歩いていけば、やがて先ほどの中井侍に至ることができた。過去形で書いたのは、およそ30年前に崩落し、それっきりだからだ。

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小和田駅の周辺はかつて人が住んでいたが、いまは廃屋が多い(2018年8月20日、蜂谷あす美撮影)。

 となると、選択肢はふたつ。5分と1時間を見比べ、手っ取り早くたどり着けそうな小和田池之神社に、まずは向かうことにした。

 矢印の示す方向に5分歩いたが、神社の影も形もなかった。目の前には道っぽいものが土砂に覆われている。しょうがないので山の斜面を歩く。これまでにも同様の手法で向かった人がいるらしく、わずかに平らな面があった。そうして15分以上かけ、ようやく質素なお社にたどり着いた。周囲にはごろごろと一升瓶が打ち捨てられていた。

 来た道を戻り、今度は「塩沢集落1時間」の方向へ。ここで時計を確認する。滞在時間として確保していたのは2時間半で、すでに残り時間は2時間を切っていた。列車の乗り遅れは避けたいし、適当なところで降り返すことにする。

 こうして歩き始めたはいいものの、行けども行けども単調な山道が続く。途中に岐路があったが、一方は「この先 高瀬橋 通行不可」という立て看板に阻まれ、その先には行けない。残りのほうをさらに進むと、頭上に民家が見えてきた。先ほどの製茶工場にくらべると新しく、人の気配すら感じた。2010(平成22)年ごろまでは夫婦が住んでいたそうだ。

 16時11分に天竜峡行きの下り列車に乗車して16時57分、田本駅にて下車した。この日の最後の訪問駅だ。駅の構造は中井侍駅と似ているものの、裏手の絶壁に民家はない。両端にはトンネルが設けられており、逃げ場はなさそうだ。

 周囲を見渡すと、豊橋寄りにあるトンネルの壁面に階段を見つけた。こちらに進めということだと理解し、トンネルの上部へと回り込み、歩みを進める。

 途中の分岐で左側の道を選んで20分以上登り続けると、田本集落に出られるらしい。しかし暑さにやられていたこともあり、登らないで済みそうな「竜田橋」に続く右側の道を選択。市場沢橋というつり橋を越え、少し進むと竜田橋にたどり着く。橋上から天竜川を眺める。日も暮れてきており、オレンジ色がまぶしかった。 

【了】

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コメント

3件のコメント

  1. トリビアリズムに陥らず、簡潔で情理があり情趣もあって、とてもよい記事。あと、写真をみて、東海の駅名標はフォント、文字バランスともに非常に行き届いているなと改めて感心。そうか茶摘み体験か。いつか飯田線を行ったり来たりしてみたいです。

  2. トイレの心配もあり、なかなか秘境駅巡りができませんが、原風景ならではの自然はやっぱりいいなと思いました。いつか時間を気にせずのんびり行ってみたくなる記事ですね。

  3. ここまでメジャーになってマニアがうようよされて賑やかだったら「秘境感」は味わえなくなってしまうだろう。全国には、アクセスは容易だが乗降客が極端に少なく、マニアも来ない駅はまだたくさんある。そういった駅で「秘境感」、時が止まったような時間を過ごしたい。

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