川を買って路面電車通りに 駅と甲子園球場、甲子園線を生んだ阪神電鉄の「大きな賭け」

高校野球の舞台として知られる阪神甲子園球場の横を、かつて路面電車が走っていました。そして、その路面電車が開業するたった数年前、道路はそのまま川だったのです。川と原野を巨額で買収したのは、阪神にとって大きな賭けでした。

川はいかにして「路面電車通り」と「球場」に変わった?

 変化が訪れたのは大正時代中期です。兵庫県が、枝川を廃川(川を廃止する)し払い下げる方針を打ち出したのです。背景には予算に窮していた県の懐事情がありました。しかし「川を売却する」とはいうものの、数kmに及ぶ細長い土地の買い手などなく、県の新たな悩みの種となっていました。そこに手を挙げたのが阪神電鉄だったのです。

Large 20190818 01
阪神甲子園バス停留所(2019年7月、宮武和多哉撮影)。

 この地の宅地化を目論んだ阪神電鉄は、河川工事の費用をプラスしたうえで実に410万円を支払いました。その金額は明治から大正にかけて進められ「世紀の大工事」といわれた大阪電気軌道(現・近鉄)の生駒トンネルの総工費269万円を大きく上回り、現在の価値に換算すると20億近い巨大投資でした。同時期の1920(大正9)年、北側に阪急神戸本線が開業し沿線開発の競争相手が増えた阪神は、新しい乗客を獲得するための大きな賭けに出たのです。

 1923(大正12)年に武庫川と枝川のあいだは締め切られ、枝川・申川の流れが消えました。干上がった枝川の流路には土木工事用のレールと道路が整備され、周囲には住宅地が次々と造成されていきます。申川と枝川に挟まれた三角州には「甲子園大運動場」(現在の阪神甲子園球場)と阪神本線の甲子園駅が造られました。5万人収容の球場と、駅・電車は、1924(大正13)年8月1日の完成を待って開催された全国中等学校優勝野球大会(現在の全国高等学校野球選手権大会)により、満員の人々でにぎわう日も出てきます。そして1926(大正15)年、路上のレールは「甲子園線」として旅客を運ぶようになりました。本線の甲子園駅も、この年から通年営業になります。

 世間では、「狐か狸の巣みたいなところをえらい金で買うて、阪神はどないするつもりや」(『阪神電気鉄道百年史』原文ママ)とまでいわれた土地でしたが、「阪神本線の梅田・三宮方面のいずれかの電車運賃1年間無料」という大盤振る舞いにより、宅地は驚異の速度で売れていきます。のどかな川は道路と線路に変わり、地域はわずか10年ほどのあいだに、「2本の電車が交差する街」として変化を遂げました。

 兵庫県は長年の懸案であった武庫川本流の堤防工事や道路工事を一気に進め、新しい道路(国道2号)にも、後に阪神の路面電車が通ることになったのです。

【写真】阪神甲子園線の跡をたどる

最新記事

コメント

記事ランキング

  1. 家族が「SSSS航空券」を引き当ててしまった…! 乗る前から“異変” 保安検査員も「Oh…」 誰でも起こり得る“緊迫の一部始終”
  2. ロシア軍の爆撃機が「真っ逆さまに墜落」 地上に激突する瞬間を捉えた映像が公開 “巨大な黒煙”が立ち上る
  3. “まるで高速”な無料バイパス「全線4車線化」へ変貌開始! 一部の上下線分離まもなく 対面通行を解消 国道8号
  4. 飛行中の「日の丸特別機」に粋なサプライズ! 天皇皇后両陛下を“最新ステルス戦闘機”がお出迎え
  5. 「危なすぎる!」阪神高速“中の人”がブチギレ!? “衝撃動画”とともに呼びかける「ドライバーが守るべき3つのこと」とは
  1. 家族が「SSSS航空券」を引き当ててしまった…! 乗る前から“異変” 保安検査員も「Oh…」 誰でも起こり得る“緊迫の一部始終”
  2. あと1年足らずで「現金でバス乗れなくなります」 全路線“完全キャッシュレス化”疑問に応えるサイト開設 京王バス
  3. ETCの手前で「ガシャン!」高速入口に吊るされた「黄色い鎖」の正体は? 傷つく覚悟で“あえてぶつける”超アナログな理由
  4. ロシア軍の爆撃機が「真っ逆さまに墜落」 地上に激突する瞬間を捉えた映像が公開 “巨大な黒煙”が立ち上る
  5. 「“再有料化”でいいから4車線化して」→普通車280円になって1年 利用者負担で勝ち取った“効果”あきらかに 八木山バイパス